独自分析
生成AIプリンシプル・コード著作権知的財産戦略本部EU AI法
生成AIの学習データ開示、日本は罰則なし。EUは最大1,500万ユーロ

生成AIの学習データ開示、日本は罰則なし。EUは最大1,500万ユーロ

知財のプリンシプル・コードが8月25日に決定。守るか、守らない理由を説明するかを事業者が選ぶ

2026-09-02

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プリンシプル・コードに置かれた罰則

守るか、守らない理由を説明するか

政府は8月25日、生成AI事業者に向けた知財のルールを決めた。

正式名称は「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」。内閣府の知的財産戦略推進事務局がまとめた。

求めているのは3つだ。

  • 自社サイトでの概要開示(モデルの来歴、学習データの種類、クローラーの情報、知財保護の措置)
  • 訴訟を準備している権利者からの照会に答えること
  • 生成AIの利用者からの照会に答えること

対象は、生成AIを公衆に提供する開発者と提供者。日本向けにサービスを出していれば、海外の会社も含まれる。

ただし、**これは法律ではない。法的拘束力も罰則もない。** 事業者は原則を実施するか、実施しない理由を説明するかを選べる。コンプライ・オア・エクスプレインと呼ばれる方式だ。

届け出を受けた内閣府は、中身を審査しない。受け入れた事業者の一覧と各社サイトへのリンクを公開するところまでが役割になる。

罰則を置かないのは、AI新法も同じ

罰則がないのは、今回のコードに限らない。

2025年6月に公布され、9月に全面施行されたAI新法も、活用事業者の責務は努力義務にとどまり、企業を直接罰する規定は置かれていない。

その手前には著作権法30条の4がある。情報解析のための利用は、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、原則として許諾なしにできる。

日本は「学習に使ってよいか」の入口を著作権法で広く開けたうえで、その先を開示で調整している。

EUは、同じ透明性を罰則つきの義務にした。

2026年8月2日から、生成AIやディープフェイクを対象とする透明性の義務が適用されている。違反の上限は1,500万ユーロか全世界売上高の3%の高いほう。禁止される慣行なら3,500万ユーロか7%になる。

**同じ「透明性」という言葉が、片方では届け出に、もう片方では制裁金につながっている。**

日本は開示させて市場に判断を委ね、EUは義務にして罰則で担保する。効かせ方が違う。

EU AI法における制裁金の上限(全世界売上高との高いほう)

出典:欧州連合日本政府代表部「EU AI法の概要」(2025年9月)

開示は、読む人がいて初めて効く

罰則のない制度では、実効性は開示を読む側に移る。

その読み手はどこにいるのか。意見公募の推移が手がかりになる。

2024年、文化庁が「AIと著作権に関する考え方」の素案に意見を募ったとき、届いたのは24,938件。個人からの投稿が大半だった。

今回のコード案に2026年1月まで寄せられた意見は2,161件。うち法人と団体は99にとどまる。

関心が消えたと読むのは早い。論点が「学習してよいか」から「何をどう開示するか」に移り、意見を書くのに実務の知識がいる段階になった。

一方で、開示を読みうる層は広がっている。

**生成AIを使ったことのある個人は58.8%で、前回調査から倍増した**(令和8年版情報通信白書、2025年度)。中国は93.6%、米国とドイツは75.6%だ。

権利者と利用者、2つの照会窓口に何件届き、何件返るか。それが、コードが働いているかを外から確かめられる数少ない手がかりになる。

生成AIをめぐる意見公募に届いた件数

出典:文化庁著作権課、内閣府知的財産戦略推進事務局

生成AIを使ったことのある個人の割合

出典:総務省 令和8年版 情報通信白書(2025年度調査)

秋に公開される一覧の読み方

届け出の受付は今秋に始まる予定で、開始日は内閣府が「別途お知らせします」としている。

一覧が公開されれば、審査がなくても、開示の質を横に並べて比べられるようになる。

見るべきは3点だ。

  • 主要な生成AI事業者が何社載るか(日本向けに提供する海外事業者を含む)
  • 学習データの「種類」がどこまで具体的に書かれるか
  • 権利者と利用者からの照会に、どれだけ回答が返るか

コードには適用除外もある。受託で開発工程の一部だけを担う事業者、公衆に提供せず研究開発だけを行う事業者、特定の企業グループのデータだけを扱う事業者などだ。線引きが実際にどこで引かれるかも、一覧を見て初めて分かる。

禁じて罰する代わりに、書かせて並べる。主要な事業者が名を連ね、学習データの種類が各社ごとに読み分けられる文章になっていれば、この方式は成立したと言える。届け出が数社にとどまるか、記述が横並びの定型文に収まるようなら、罰則を置かない選択そのものが次の論点になる。