空き家「900万戸」なのに家賃が上がる国──住宅市場「三重ロック」の正体
壊せない・住めない・回らない。量の問題ではなく「流動性の危機」
2026-06-01
900万戸
全国の空き家数(2023年・過去最高)
空き家だらけの国で、なぜ家賃が上がるのか
日本の空き家は900万戸を超えた。 総務省の2023年住宅・土地統計調査で、空き家率は13.8%と過去最高を記録している。
7戸に1戸が空き家。 にもかかわらず、住居費は上がり続けている。
東京23区の賃料は前年比+5.3%で、13四半期連続の過去最高値更新だ。 ファミリー向けに至っては+12.4%。 新築マンションの首都圏平均価格は9,182万円に達し、東京23区の中古マンションですら平均1億6,766万円(前年比+24.7%)。
「空き家だらけなのに住居費が高い」──この矛盾こそ、日本の住宅市場が抱える構造的な病の症状だ。
本稿の仮説はこうだ。 空き家900万戸は「供給」としてカウントできない。税制・相続・老朽化が生み出す「三重ロック」が空き家を市場から隔離し、住宅の量ではなく流動性の危機が家賃高騰を引き起こしている。
空き家数と空き家率の推移
出典:総務省「住宅・土地統計調査」各年版
「壊せない」── 固定資産税6倍の罠
空き家が放置される最大の原因は税制にある。
住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、固定資産税が最大6分の1に軽減される。 つまり、建物を解体した瞬間に税負担が最大6倍に跳ね上がる。
木造住宅の解体費用は坪3〜5万円が相場で、一般的な30坪の家で90万〜150万円かかる(総務省統計)。 これに加えて税負担の急増が待っている。
たとえば評価額1,000万円の土地の場合:
- 建物あり:固定資産税 約2.3万円/年
- 更地化後:固定資産税 約14万円/年
年間12万円の負担増を嫌い、所有者は「とりあえず建物を残す」という合理的判断をする。 2023年の改正空家法で「管理不全空家」への勧告制度が新設されたが、実際に勧告を受ける物件はごく一部だ。
結果、空き家の大半は「壊すと損する」まま放置され続ける。
「住めない・売れない」── 385万戸の塩漬け在庫
空き家900万戸の内訳を見ると、問題の本質が浮かび上がる。
- 賃貸用の空き家:49.2%(約443万戸)
- 「その他の住宅」:42.8%(約385万戸)
- 売却用:3.6%(約32万戸)
- 二次的住宅:4.3%(約39万戸)
賃貸用の空き家は市場に出ているが借り手がつかない物件。 これはある意味、市場が機能している結果だ。
問題は「その他」の385万戸。 これは相続したまま放置された実家、老朽化で住めない家、所有者不明の物件などだ。 5年間で37万戸増え、空き家増加分51万戸の7割を占める。
都道府県別に見ると格差は歴然としている。
- 徳島県:空き家率21.2%
- 和歌山県:21.2%
- 山梨県:20.5%
- 全国平均:13.8%
- 東京・埼玉・沖縄:10%前後
地方の空き家は需要がなく売れない。 都市部は空き家が少なく、あっても立地が悪い物件ばかり。
900万戸のうち、実際に「住みたい人」と「住める物件」がマッチする数は極めて限られる。 これが「量があるのに供給にならない」メカニズムだ。
空き家900万戸の内訳
出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」
都道府県別 空き家率(2023年)
出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」
「回らない」── 新築74万戸が矛盾を加速させる
もう一つの構造的問題がある。 空き家が増え続ける一方で、新築住宅は年間74万戸も建てられている。
2025年の新設住宅着工戸数は74万667戸で、62年ぶりの低水準だった(国土交通省)。 それでも「低水準」で74万戸だ。
世帯数はすでに減少に転じているのに、住宅の純増は続いている。 野村総合研究所の推計では、2043年に空き家率は約25%に達する見込みだ。 4軒に1軒が空き家になる。
なぜ新築が止まらないのか。
- 住宅ローン減税は新築に手厚く、中古は条件が厳しい
- 不動産業界の収益モデルが新築販売に依存している
- 「新築プレミアム」という消費者心理が根強い
- 省エネ基準適合の義務化で、古い中古物件が敬遠される
日本の住宅政策は「建てる」ことに最適化され、「回す」仕組みが弱い。 欧米では中古住宅の流通シェアが7〜9割なのに対し、日本は約15%にとどまる。
この新築偏重が、空き家の山と住居費高騰という矛盾を同時に生み出している。
「三重ロック」を外さなければ、2043年に4軒に1軒が空き家になる
空き家問題の本質は「家が余っている」ことではない。 「市場に出てこない」ことだ。
税制(壊すと損)、相続(手続きが面倒で放置)、新築偏重(中古に流れない)──この三重ロックが住宅の流動性を殺している。
やるべきことは明確だ。
- 空き家の解体・流通に対する固定資産税の軽減(壊すペナルティをなくす)
- 中古住宅リノベーションへの税制優遇を新築並みに引き上げる
- 相続登記義務化(2024年開始)の実効性を確保し、所有者不明物件を減らす
2023年の空家法改正で管理不全空家への対応は強化されたが、そもそも「空き家を持ち続けるインセンティブ」を断たなければ根本解決にならない。
地方では4〜5割が空き家になる地域も出てくると予測されている。 これは過疎地だけの話ではない。 郊外のベッドタウン、かつてのニュータウンも例外ではない。
住宅は「資産」から「負債」に変わりつつある。 その転換点は、もう来ている。