「82%の民意」と「同盟の論理」── イラン危機が呼び覚ました反戦世論の衝撃
国会前2万4千人、自民支持層でも70%が「不支持」。2003年イラク戦争を超える反戦世論は、高市政権の安保路線をどこまで揺さぶるのか。
2026-03-30

82%
イラン攻撃「不支持」(朝日新聞調査)
「戦争反対」の声が戻ってきた──国会前2万4千人
2026年3月25日夜、雨の国会議事堂前に約2万4千人(主催者発表)が集まり、「武力で平和はつくれない」「高市総理は憲法を守れ」と訴えた。2015年の安保法制反対デモを想起させる光景だが、今回の背景は2月28日に米国とイスラエルが始めたイランへの大規模軍事攻撃である。ハメネイ師死亡の報道、3月2日のイラン革命防衛隊によるホルムズ海峡封鎖宣言を受け、WTI原油先物は攻撃前の67ドルから3月末に99ドルを突破した。国内では3月3日に新宿駅前の野党5党共同街宣へ500人超、3月19日の日米首脳会談当日には国会議員会館前へ約1万1千人が参加した。25日の行動は、2015年9月の安保法制反対デモ(主催者発表12万人、警察発表3万人)以来最大規模の国会前抗議とされる。大阪・御堂筋、福岡・警固公園の「高市政権ヤバいでSHOW」、静岡、長野、島根、函館でも行動が相次ぎ、democalendar.jp上でも4月以降の予定が続く。
82%が示す異例の反戦世論
世論調査は、街頭の抗議が一部の熱気にとどまらないことを示している。時事通信の3月調査では、米国・イスラエルによるイラン攻撃を「支持する」は7.0%、「支持しない」は75.1%。朝日新聞の3月14〜15日調査では「支持しない」が82%、「支持する」は9%だった。2003年3月のイラク戦争時、同じ朝日新聞調査は「支持しない」59%、「支持する」31%であり、今回は不支持が23ポイント増え、支持は22ポイント減った。党派別にも広がりは大きい。時事通信ではイラン攻撃不支持が自民党支持層69.9%、日本維新の会支持層71.4%、中道改革連合支持層83.3%、国民民主党支持層75.0%、内閣支持層でも71.3%に達した。自衛隊の中東派遣についても、日経・テレビ東京調査で「派遣すべきでない」74%、「派遣すべきだ」18%。チキラボの緊急意識調査では「米国からの派遣要求を拒否すべき」が59.7%を占めた。エネルギー危機への懸念と軍事関与への拒否感が、同時に存在している。
イラン攻撃への世論:2003年イラク戦争 vs 2026年イラン危機
出典:朝日新聞世論調査(2003年3月・2026年3月)
「オタクによる反戦デモ」と共感動員の広がり
3月28日の国会前では「オタクによる反戦デモ〜推しのいる世界を、戦場にするな。」が開かれ、漫画家や声優がリレー形式で発言し、オンライン参加を含め約3千人が「平和を壊すな」と訴えた。同日夜の新宿駅前では「平和フェス〜戦争・独裁ムリすぎ!〜」に約1,400人が集まった。労働組合や政治団体を中心とした組織動員型だけでなく、SNSを起点にした共感動員型の市民運動が前面に出ている。2015年のSEALDs以後の流れを引き継ぎつつ、今回はアニメファン、ゲーマー、コスプレイヤーなどのサブカルチャー・コミュニティも、推し活と平和への希求を結びつけた。背景には、2026年衆院選で18・19歳投票率が過去最高を記録した若年層の政治意識の変化もある。加えて、ガソリン価格が3月16日に全国平均190.8円を記録し、安全保障が生活の問題として意識された。もっとも、主催者発表と警察発表には乖離があり、SNS上の反戦投稿が社会全体をそのまま映すとは限らない。ただ、82%という調査結果は、反戦意識が保守層やノンポリ層にも広がっていることを示している。
高市政権の綱渡りと同盟の制約
高市早苗首相は、米国・イスラエルによるイラン攻撃について国際法上の法的評価を明言していない。この姿勢への評価は割れる。日経・テレ東調査では「理解できる」68%、「理解できない」25%だった一方、朝日新聞調査では「評価しない」51%が「評価する」34%を上回った。攻撃を支持すれば82%の反戦世論と衝突し、批判すれば日米関係への影響が避けにくい。2003年のイラク戦争で小泉純一郎首相が攻撃翌日に米国支持を表明したのとは対照的に、高市首相は明確な賛否を避けている。短期的には、この対応は政権への打撃を抑えた。高市内閣支持率は3月第3週に57.3%まで下落したが、日米首脳会談後の第4週には60.5%へ戻り、日経・テレ東の3月末調査では72%を記録した。ただ、与党内には温度差がある。維新の吉村洋文代表はホルムズ海峡の安全確保へ「より積極的な関与」に言及したが、維新支持層の71.4%は攻撃を不支持。中道改革連合支持層では不支持が83.3%と最も高い。専門家は、今後は「期待値」ではなく「やったこと」で評価されるとみる。ガソリン補助金は1リットル48.1円に達し、国家備蓄放出により3月21日時点の備蓄残量は240日分へ減った。
政党支持層別「イラン攻撃不支持」率
出典:時事通信世論調査(2026年3月)
2003年との違いとこれからの焦点
2003年のイラク戦争と2026年のイラン危機の違いは、生活への直結度、情報環境、日米同盟の位置づけにある。2003年は人道上の懸念や国際法上の正当性が主な争点で、日本のエネルギー供給への直接的影響は限られた。今回はホルムズ海峡封鎖により原油輸入の9割が脅かされ、ガソリン価格は190.8円/Lに達した。スリランカでは給油制限と計画停電、パキスタンでは全土の学校休校が始まり、反戦は理念だけでなく生活防衛の問題になった。2003年にほぼ存在しなかったSNSも、XやInstagramを通じて中東の映像やデモの呼びかけを拡散している。一方、日本は防衛費をGDP比2%へ引き上げ、武器輸出の「原則可能化」も議論され、米国との安全保障上一体化は進んだ。原油輸入の94%を中東に依存しながら、安全保障を日米同盟に委ねる日本にとって、同盟国の軍事行動を82%が拒む構図は重い。今後の焦点は、参院で過半数を持たない与党の予算審議、ホルムズ海峡問題の長期化、改憲論議への波及である。トランプ大統領はイランのエネルギーインフラ攻撃期限を4月6日まで延長し、ペンタゴンは1万人の追加派兵を検討中と報じられる。共産党は4議席ながら攻撃中止を求め、国民民主党はエネルギー安全保障を前面に軍事関与へ慎重姿勢を取る。82%の民意が政策を動かすのか、2003年のように世論と政策が乖離するのかが問われている。
自衛隊の中東派遣に関する世論
出典:日本経済新聞・テレビ東京共同調査(2026年3月)