「路上の民意」再燃 ── 反戦デモ全国拡大と「75%不支持」が問う日本の平和主義
国会前2.4万人、全国34カ所。イラン攻撃への圧倒的不支持は、与党支持層すら貫く。「沈黙の国」はなぜ声を上げ始めたのか。
2026-03-31

75.1%
イラン攻撃「不支持」
「沈黙の国」が動いた ── 2026年3月、全国に広がる反戦の波
2026年3月25日夜、雨の東京・国会正門前に2万4000人(主催者発表)が集まり、平和憲法を守る緊急アクションを行った。ペンライトが「憲法守れ」のコールに合わせて揺れ、3日後の28日には「オタクによる反戦デモ〜推しのいる世界を、戦場にするな。」が同じ国会前で開かれ、オンラインを含め約3000人が参加した。同日、新宿駅前の「平和フェス〜戦争・独裁ムリすぎ!〜」にも約1400人が集まった。動きは東京に限らず、3月20日には大阪・中之島公園から御堂筋デモ、3月8日には大阪府寝屋川市で市民デモが行われた。静岡ではパレスチナ連帯のスタンディングが続き、4月以降も北海道・函館、島根・出雲、長野・松本、愛知など全国34カ所以上でデモや集会が予定されている。2015年の安保法制反対デモがSEALDsに象徴される学生主導だったのに対し、今回は「オタク」「推し活層」「子育て世代」「フリーランス」など、従来の政治運動と距離のあった人々が前面に出る。背景には、2月28日に米国とイスラエルがイランへ大規模軍事攻撃を開始し、ハメネイ最高指導者が暗殺された衝撃がある。ホルムズ海峡の事実上の封鎖、原油価格とガソリン価格の上昇により、戦争は日常の価格表示板に現れる危機となった。コロナ禍で凍結されていた市民社会が、再び路上へ戻り始めている。
「75.1%不支持」の衝撃 ── 与党支持層すら貫く反戦世論
反戦デモの広がりを裏付けるように、世論調査は強い不支持を示している。時事通信が3月6〜9日に実施した全国18歳以上2000人対象の個別面接調査(有効回収率57.5%)では、米国とイスラエルによるイラン攻撃を「支持する」は7.0%、「支持しない」は75.1%、「どちらとも言えない・分からない」は17.8%だった。党派別でも不支持は広く、自民党支持層で69.9%、連立パートナーの日本維新の会支持層で71.4%、国民民主党支持層で75.0%、中道改革連合支持層で83.3%に達した。高市内閣を支持する層でも71.3%が不支持で、「首相は支持するが、イラン攻撃は支持しない」という態度の分離が起きている。朝日新聞調査でも反対82%、支持9%で、高市首相がイラン攻撃の法的位置づけを明確にしないことには51%が不支持、賛成は34%だった。2003年のイラク戦争時は米国の軍事行動への支持31%、不支持59%であり、今回の支持7〜9%、不支持75〜82%は大きな変化である。米国内でさえイラン攻撃への不支持は59%(CNN調査)で、日本の75%はG7諸国の中でも高い水準にある。憲法9条を持つ社会の平和主義に、ホルムズ海峡封鎖による経済的打撃への怒りが重なったとみられる。高市政権が「詳細な事実関係を把握できない」として法的評価を避ける中、75%の民意と政府の沈黙の落差が路上の動きを強めている。
イラン攻撃への評価(政党支持層別「不支持」率)
出典:時事通信 2026年3月世論調査(3月6-9日実施)
安保闘争から「推し活デモ」へ ── 日本の抗議運動70年史
日本の大規模な反戦・平和運動は、1960年の安保闘争に遡る。日米安保条約改定に反対して国会議事堂を取り囲んだデモには最大約33万人(主催者発表)が参加し、岸信介内閣を退陣に追い込んだ。条約は発効したが、この運動は戦後日本の市民運動の原型となり、70年安保、ベトナム反戦運動、80年代の反核運動へつながった。近年の転換点は2015年の安保法制反対デモである。集団的自衛権の行使容認に反対し、8月30日には国会議事堂周辺に約12万人(主催者発表)が集まった。SEALDsの奥田愛基氏ら学生たちはSNSを活用し、「デモに行く」心理的ハードルを下げたが、法案は成立し、SEALDsは2016年に解散した。その後、2017年の憲法改正反対集会は約5.5万人、2020年以降はコロナ禍で大規模集会が難しくなり、2025年の若者憲法集会は約1100人にとどまった。政治山の調査でも、安保法制反対デモに「参加したことがある」と答えた人は全体の1.8%に過ぎず、「デモをしても変わらない」という諦念が広がっていた。それでも2026年3月、人々は再び路上に出た。イラン攻撃という具体的なきっかけ、TikTok、Instagram、YouTube Shortsなど映像型SNSの拡散、コロナ禍で蓄積した「声を上げられなかった」感覚が重なったためだ。「推しのいる世界を、戦場にするな」という言葉は、政治的立場よりも「好きなものを守りたい」という感情に訴え、従来の運動が届きにくかった層へ回路を開いている。
日本の主要反戦・平和デモ 最大動員数の推移
出典:各主催者発表、報道各社集計
高市政権と各党のジレンマ ── 高支持率、反戦世論、党派の温度差
高市内閣の支持率は2026年3月時点で各社56〜72%と高水準を維持している。日経・テレ東調査(3月27〜29日実施)では72%と3カ月ぶりに70%台を回復し、3月19日の日米首脳会談でトランプ大統領から好意的な評価を受けたことが追い風と分析された。一方で、この高支持率は「イラン攻撃75%不支持」と同時に存在する。時事通信調査では59.3%と前月比4.5ポイント低下し、政権発足後の過去最低を記録。毎日新聞調査でも61%から58%へ下がり、世論レーダーの日次調査では3月第2週60.6%、第3週57.3%から、日米首脳会談を挟んで第4週60.5%へ反発した。選挙ドットコムでは電話56.1%、ネット45.3%と調査手法による差もある。min-i nowの最新アプリ内調査(回答者1214人)では内閣支持25.1%、不支持42.9%だが、高市早苗首相個人への支持は50.7%、不支持18.6%で、「内閣全体」と「首相個人」に25ポイント以上の差がある。3月末には熊本の陸上自衛隊駐屯地に12式地対艦誘導弾(改良型)のミサイル発射機材が、事前の住民説明なしに搬入された。各党も難しい対応を迫られる。自民党は日米同盟を重視しつつ明確な支持・不支持を避け、支持層の69.9%不支持との間で揺れる。維新も支持層71.4%が不支持で、min-i nowでは支持19.4%、不支持50.7%と厳しい。中道改革連合は支持層83.3%が不支持で最も反戦色が濃く、2026年に立憲民主党と公明党の残留組が合流して誕生した同党は、min-i nowで支持17.2%、不支持10.8%と不支持率の低さが目立つ。国民民主党は支持層75.0%が不支持で、原油高騰による家計打撃を「手取りを増やす」政策と接続しやすい。共産党やれいわ新選組は従来から反戦・反米姿勢を明確にしているが、min-i nowでは不支持率が69〜71%と高く、反戦だけで支持が広がるわけではない。
「路上の民主主義」の行方 ── デモは政治を変えるのか
日本の反戦デモの歴史では、路上の声が直接政策を変えた例は多くない。1960年の安保闘争は岸内閣退陣につながったが、条約は発効した。2015年の安保法制反対デモも12万人を動員しながら、法案成立を止められなかった。その記憶が「デモをしても変わらない」という諦めを生んできた。ただし、2026年3月には過去と異なる条件がある。第一に、「75.1%不支持」という世論の圧倒的な一致である。2015年の安保法制では世論が割れていたが、今回は与党支持層を含む4分の3がイラン攻撃に反対している。第二に、参議院のねじれである。衆議院では自民党が316議席を持つが、参議院では過半数に届かず、野党が結束すれば国会決議や質問主意書を通じて圧力をかけられる。第三に、7月の参議院選挙が近い。75%が反対する問題を無視することは、与党候補にとってリスクになる。一方で限界もある。3月25日の2.4万人、28日の3000人と1400人は、2015年のピーク時12万人には届かない。全国34カ所という広がりは印象的だが、各地の規模は数十〜数百人にとどまる例も多い。SNSの拡散は速い反面、関心の移り変わりも速く、長期的な運動になるかは見えない。それでも、路上で声を上げること、SNSで意見を表明すること、署名に参加することは、いずれも民主的な政治参加である。国会前で「憲法守れ」と声を上げた会社員女性(34)は、これまでデモに参加したことはなかったが、ガソリン価格の上昇、爆撃の映像、子どもの未来を考えて「じっとしていられなくなった」と語った。この「初めてデモに来た人」こそ、2026年の反戦運動の特徴であり、政治が向き合うべき声である。
イラン攻撃への世論:日本 vs 米国
出典:時事通信(日本)、CNN(米国) 2026年3月調査