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「3.6兆円の的外れ」── 少子化の主犯は"結婚できない"なのに、なぜ子育て支援ばかりなのか

「3.6兆円の的外れ」── 少子化の主犯は"結婚できない"なのに、なぜ子育て支援ばかりなのか

出生数60万人割れが現実味を帯びる2026年。3.6兆円の加速化プランは、少子化の8割を占める未婚化にほとんど手を打っていない。

2026-05-27

80%

少子化要因に占める「未婚化」の割合

10年で3分の2に縮んだ出生数

2024年の出生数(確定値)は68.6万人。2015年の100.6万人から、わずか9年で32万人が消えた。

年間3万〜5万人ペースの減少が止まらない。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計より17年も早いペースだ。

2025年の確定値は66万人台に沈む見通し(日本総研推計)。さらに2026年は60年ぶりの「丙午(ひのえうま)」の年にあたる。

前回1966年には出生数が前年比25%急落した。今回は迷信の影響は限定的とされるが、仮に数%の「産み控え」が上乗せされれば60万人割れは射程圏内だ。

ここで問うべきは「なぜ減り続けるのか」。答えは意外にシンプルだが、政策はそこを見ていない。

出生数の推移(2015〜2025年)

厚生労働省「人口動態統計」、2025年は日本総研推計

結婚した夫婦の子どもは「減っていない」

見落とされがちな事実がある。

結婚した夫婦の最終的な子ども数(完結出生児数)は1.81人(第16回出生動向基本調査)。1970年代の2.2人からは低下したが、2を大きく割り込んではいない。

「結婚すれば子どもは生まれる」構造は、まだ崩れていない。

では何が出生数を押し下げているのか。国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆氏の分析が明快だ。

少子化の要因の8割は「未婚化」に起因する。

「子どもを産まなくなった」のではない。「結婚しなく(できなく)なった」のが主因だ。

生涯未婚率がこれを裏付ける。

  • 1980年代:男性2.6%、女性4.5%
  • 2020年:男性28.3%、女性17.8%

40年で男性の生涯未婚率は10倍以上に跳ね上がった。出生数の急減は「子を産まない選択」ではなく「結婚という入口に立てない」ことの帰結だ。

少子化の要因分解

国立社会保障・人口問題研究所(岩澤美帆氏分析)

「結婚したいのにできない」── 40%の不本意未婚

未婚者の多くは、結婚を望んでいないわけではない。

「いずれ結婚するつもり」と答えた18〜34歳は男性81.4%、女性84.3%(第16回出生動向基本調査)。ただし前回から男性4.3pt、女性5.0pt低下した。静かに「諦め」が広がっている。

20〜34歳の約40%が「不本意未婚」──結婚したくてもできない状態にある。

障壁のトップは「結婚資金」だ。

正社員の平均月給34.9万円に対し、非正規は23.3万円(厚労省・賃金構造基本統計調査)。年収にして約140万円の格差がある。

住宅コストも追い打ちをかける。変動金利は1%台に上昇し、フラット35は2.71%。ゼロ金利時代と比べ、同じ物件の年間返済額は数十万円増えた。

「結婚したいけど、経済的に無理」。この声に政策は届いているだろうか。

正規・非正規の月給格差

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2024年)

3.6兆円の「ミスマッチ」── 火元でなく煙に水をかけている

政府は「こども未来戦略」で年3.6兆円規模の「加速化プラン」を打ち出した。主なメニューはこうだ。

  • 児童手当の拡充(所得制限撤廃、高校生まで延長)
  • 出産育児一時金の引き上げ(50万円)
  • 育児休業給付の実質10割化
  • 保育の質と量の拡充

いずれも「すでに結婚している世帯」への支援だ。

一方、未婚の若者が直面する「結婚資金」「雇用の不安定さ」「住居コスト」への直接施策は、このパッケージにほぼ含まれていない。

結婚支援に充てられる予算は、内閣府の地域少子化対策重点推進交付金など年間数十億円規模にとどまる。3.6兆円の1%にも満たない。

少子化の8割を占める「未婚化」に対し、予算の1%未満しか投じていない。これは火事に例えれば、火元ではなく煙に水をかけている状態だ。

2030年がタイムリミット── 婚姻率を上げなければ50万人割れは不可避

結婚した夫婦の出生数が安定している以上、出生数回復の鍵は婚姻数にある。

婚姻数は2023年に戦後最少の47.5万組を記録した。2024〜2025年は微増したが、50万組前後の低空飛行が続く。

子育て支援の充実に「加えて」、結婚の経済障壁を下げる構造的な施策が不可欠だ。

  • 若年層への家賃補助・住宅取得支援
  • 奨学金返済の結婚時減免制度
  • 非正規の正規化促進と同一労働同一賃金の徹底

フランスは出生率回復期に、子育て支援と並行して若者向け住宅補助(APL)で「パートナーシップを持ちやすい環境」を整えた。「産む支援」と「結ばれる支援」を一体設計した点が日本との決定的な違いだ。

2030年代に入ると結婚適齢期(25〜34歳)の人口が急減する。この世代の絶対数が減る前に婚姻率を引き上げなければ、出生数50万人割れは避けられない。

3.6兆円を投じてもなお出生数が減り続けるなら、それは政策の「規模」ではなく「的の選び方」が間違っていた証左になる。