独自分析
少子化公約深刻
68万人の衝撃 — 出生率1.15でも政治は動かない

68万人の衝撃 — 出生率1.15でも政治は動かない

加藤こども政策担当大臣の支持率15.5%。少子化対策への期待と焦燥が交錯する。

2026-03-16

68万人の衝撃 — 出生率1.15でも政治は動かない - 全体像

1.15

合計特殊出生率(2024年・過去最低)

この記事の全体像

投入した政策
年3.6兆円の「こども未来戦略」児童手当拡充1.7兆円 / 育休5,000億 / 保育3,000億
それでも止まらない3つの壁
婚姻数の減少未婚率 男28% 女18%
経済的不安非正規36% 年収300万台
価値観の変化結婚不要68%
結果
出生数 68.6万人(過去最少)/ 出生率 1.15(過去最低)→ 公約達成度はわずか15%。「すでにいる世帯」支援が中心で、「これから」層への施策が不足

全体像 — 出生率1.15が示す人口減少の重み

日本の少子化は、2024年の合計特殊出生率が過去最低の1.15となり、出生数が68万人を割り込んだことで、新たな局面に入った。人口置換水準の2.07には大きく届かず、現在の流れでは毎年約50万人のペースで人口が減少していく計算になる。政府は「異次元の少子化対策」として3.6兆円規模のこども未来戦略を掲げてきたが、出生率の改善は確認されていない。少子化関連予算は2015年に年2兆円を超え、10年間で累計30兆円以上が投じられた一方、出生率は1.45から1.15へ低下した。最新の世論調査では回答者1,300名のうち、加藤鮎子こども政策担当大臣の支持率は15.5%、不支持率は0.9%だった。強い批判が広がっているというより、政策への期待と成果の距離が埋まらない状況が見える。少子化は国の持続性に関わる問題だが、政治的関心は他の争点にも分散している。

合計特殊出生率の推移

2000年〜2024年 | 出典:厚生労働省

3.6兆円の使途 — 支出だけでは反転しない理由

こども未来戦略の柱は、児童手当の高校卒業までの延長、第3子以降への月3万円支給、出産費用の保険適用検討、育児休業給付の引き上げによる手取りの実質100%保障である。年間3.6兆円という規模は、GDP比で見ても先進国の中で高い水準にあり、フランスの家族関連支出であるGDP比約3.6%に匹敵するとされる。それでも出生率が反転しない背景には、複数の要因がある。第一に、若年層の実質賃金が伸び悩んでいる。20代の平均年収は約350万円で、東京圏の1LDKの平均家賃が月12万円以上となるなか、教育費も含めて考えると、子ども2人を持つ負担は重い。第二に、非婚化が進んでいる。50歳時未婚率は男性28.3%、女性17.8%に達し、婚姻数も年間50万組を割り込んだ。結婚した夫婦の出生数だけでなく、結婚そのものの減少が出生数に影響している。第三に、支援策はすでに子どもがいる世帯への補助が中心で、将来不安、キャリアとの両立、住環境といった、子どもを持つかどうかの判断に関わる条件には届きにくい。財政支出と出生率の関係が弱まっていることは、少子化が単なる金銭負担の問題ではなく、社会構造と価値観の変化を含む課題であることを示している。

政治の温度差 — 支持率が映す関心の偏り

内閣支持率が57.7%である一方、少子化問題への政治的優先度は必ずしも高く見えない。閣僚の支持率では、加藤こども政策担当大臣の15.5%は、トップの平デジタル大臣59.6%や中谷防衛大臣27.9%の後ろに位置する。投票数も341票で閣僚8名中5位にとどまり、有権者の注目が防衛やデジタルなど別の分野に向きやすい状況がうかがえる。政党別では、少子化対策を明確な看板政策として打ち出しているのは、支持率12.8%の国民民主党が目立つ。同党は「103万円の壁」見直しや教育費負担の軽減など、若年層の手取り増加を通じた間接的な対策を掲げている。自民党は支持率31.1%で、316議席を持つ巨大与党としてこども未来戦略を進めるが、政策全体は総花的に見られやすい。チームみらいは支持率23.5%で若者の政治参加を掲げる一方、少子化に関する具体的な政策パッケージはまだ明確ではない。加藤大臣の不支持率0.9%は、平大臣の0.3%に次いで全閣僚で2番目に低い。この数字は強い反発の少なさを示す一方、積極的に批判するほど注目されていない可能性もある。少子化は多くの政党が重要だと位置づけるが、選挙の勝敗を左右する中心争点にはなりにくい。出産や子育てが個人の選択であることを尊重しながら、社会全体の持続可能性に政治がどこまで踏み込めるかが問われている。

今後の展望 — 60万人割れと政策転換の課題

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、現在の傾向が続けば2028年にも出生数は60万人を割り込む。これは戦後最大の人口減少速度であり、年金、医療、介護の制度設計を根本から揺るがすだけでなく、自衛隊の人員確保や地方自治体の存続にも関わる。2040年には日本の人口は約1億800万人に減少し、高齢化率は35%に達する見通しだ。政策転換の候補としては、北欧型の「働き方改革+住宅支援」パッケージが注目される。フランスは手厚い育児休業と住宅手当の組み合わせで出生率1.8台を維持し、スウェーデンも男性育休のパパ・クオータ制で出生率を下支えしている。日本でも男性育休取得率の引き上げが議論されており、現在約30%から政府目標50%への上昇が目指されているが、中小企業への浸透には時間がかかる。加えて、住宅支援の弱さも課題である。子育て世帯への家賃補助やファミリー向け公営住宅の整備は、フランスやドイツと比べて遅れている。最新の支持率データは、有権者が少子化に対して諦めに近い感覚を持ち始めている危険性も示す。加藤大臣への低い不支持率は、期待していないから批判もしないという消極的容認とも読める。新生児が納税者になるのは20年後であり、対策が遅れるほど回復は難しくなる。68万人という数字を、政治がどの程度の危機として受け止めるかが問われている。