首都直下地震の発生確率70%。バックアップ都市を決める法律は、まだない
中央防災会議は経済被害83兆円、断水1,400万人と想定する。副首都を法律で定める法案が初めて国会に提出されたが、指定要件を満たす都市は事実上大阪に限られる
2026-07-10
83兆円
首都直下地震の経済被害想定(中央防災会議)
83兆円と1,400万人の断水
2025年12月、中央防災会議が首都直下地震の被害想定を12年ぶりに更新した。
経済被害は約83兆円。前回の95兆円からは減少したが、国の一般会計予算の7割に相当する。
人的・物的被害の想定はこうなる。
- 死者:約1.8万人
- 建物全壊・焼失:40万棟
- 停電:最大1,600万軒
- 断水:1,400万人
- 避難者:480万人
通信への影響も大きい。固定・インターネット回線は760万回線が不通になり、4都県で約5割の携帯基地局が停波するおそれがある。
30年以内の発生確率は70%だ。東京圏(1都3県)には全国人口の30.1%にあたる3,699万人が暮らし、上場企業の本社も半数超が集中している。
この首都圏が被災したとき、政府の代替拠点を法律で定めた仕組みは存在しなかった。
東京圏への集中度(全国に占めるシェア)
国土交通省、総務省国勢調査(2025年)
初めて国会に出た「副首都」法案
2026年6月24日、副首都を法律で定める法案が初めて国会に提出された。
正式名称は「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律案」だ。大規模災害で首都中枢機能が維持できなくなったとき、代替拠点を平時から整備しておくことを目的とする。
法案の骨格は4つある。
- 内閣に推進本部を設置し、本部長は首相が務める
- 副首都担当相を新設する
- 施行から1年以内に基本方針を策定する
- 施行後5年間を集中整備期間とする
副首都の指定には、人口と経済規模が一定以上であること、首都圏と同時に被災するリスクが低いこと、国の行政機関が一定程度立地していることなどが要件として課される。
副首都は「常時の首都機能移転」ではない。平時は既存の機能を活かしつつ、緊急時にバックアップとして機能する拠点を事前に整備する設計だ。
要件を満たす都市は事実上1つ
法案は「大阪に限定する」とは書いていない。だが、要件を組み合わせると候補は絞られる。
首都直下地震の緊急対策区域や南海トラフ地震の想定震源域を除くと、名古屋(愛知県)は候補から外れやすい。福岡は県人口512万人、市内GDPは7.8兆円で、大阪との規模の差が大きい。
大阪府の人口は880万人で全国3位。名目GDPは40兆円超で東京に次ぐ。大阪市だけでも市内総生産は21.2兆円と政令市で最大だ。
法案の指定要件を当てはめると、人口・経済規模・災害リスク・行政インフラのすべてを満たせるのは現時点で大阪以外に見当たらない。
法案は衆議院の特別委員会で6月30日に審議入りした。参議院では少数与党が続いており、成立には他の政党の協力が必要になる。
主要都市の市内総生産(副首都候補地の比較)
内閣府 県民経済計算
「指定」の先に何があるか
法案が定める集中整備期間は5年だ。だが「30年以内に70%」は統計上の確率であり、明日起きても矛盾しない。
土木学会は2024年、首都直下地震後の20年間の累積経済被害を1,001兆円と推計した。復興までの影響を含めると、バックアップ拠点の有無が生む差は数百兆円規模になりうる。
東京圏には大資本法人(資本金10億円以上)の59.3%、外資系企業の75%が本社を置く。行政だけでなく、経済活動のバックアップも大きな論点になる。
法案は副首都の「指定」と「整備の枠組み」を定める。だが、政府のどの機能をいつまでに移転可能にするかは、施行後に策定される基本方針に委ねられている。
副首都が「発災直後から政府を動かせる場所」になるのか、「法律上の地位づけ」にとどまるのか。分かれ目は、基本方針に書き込まれる工程表と整備のスピードにある。