千葉豪雨、浸水被害の55.7%はハザードマップに色のない場所で起きた
下水があふれる内水ハザードマップを公表している市区町村は17%。川の地図は99%そろっている
2026-08-25
17%
内水ハザードマップを公表している市区町村の割合
千葉豪雨の被害はどこで起きたか
2026年8月13日から14日にかけて、千葉県で記録的な雨が降った。
千葉市中央区では1時間に115.0mm、12時間で348.0mmを観測し、いずれも観測史上1位を更新した。8月ひと月分の平年値の3倍が、半日で降ったことになる。
内閣府の集計では、8月25日時点で死者13人。浸水した建物は約4,100棟にのぼる。
ただ、国土交通省の被害報告に記されているのは、次の一行だ。
**国が管理する河川の氾濫による被害情報は、なし。**
浸水被害が確認されたのは県管理の5河川だけだった。大きな川は、あふれていない。
ではどこで浸水したのか。ウェザーニューズがアプリ利用者から寄せられた約2万件の報告を分析したところ、浸水や冠水を伝える報告の55.7%は、浸水想定区域や低位地帯の「外」から届いていた。
川から離れた場所で水が出るときの典型的な原因が、雨水が下水道の処理能力を超えて道路やアンダーパスにたまる内水氾濫である。
千葉豪雨の浸水報告はどこから届いたか
出典:ウェザーニューズ(約2万件の報告を分析、2026年8月14日発表)
川の地図と下水の地図
水害のハザードマップは、原因ごとに別々に作られる。川があふれる洪水、海水が押し寄せる高潮、そして下水があふれる内水の3種類だ。
国土交通省の集計を並べると、整備の進み方ははっきり分かれている。
- 洪水(洪水予報河川と水位周知河川):対象1,431市区町村のうち1,420が公表。約99%
- 高潮:対象333のうち237が公表。約71%
- 洪水(中小河川):対象1,633のうち1,104が公表。約68%
- 内水:対象1,121のうち186が公表。約17%
**内水ハザードマップを公表していない市区町村は935。対象の83%にあたる。**
一方、国土交通省の水害統計によると、2013年から2022年の10年間に浸水した建物29万棟のうち、59%にあたる17万棟は内水氾濫によるものだった。
浸水した建物のおよそ6割は内水由来なのに、その地図があるのは6市区町村に1つ。被害の重みと地図の整備が、正面から食い違っている。
種類別に見たハザードマップの公表率
出典:国土交通省(令和8年3月末時点、内水は令和7年3月末時点、高潮は令和7年12月1日時点)
1時間50mmで設計した街
この食い違いは、雨の激しさよりも、制度が始まった時期の差から来ている。
洪水ハザードマップは、2005年の水防法改正で指定河川の沿岸自治体に作成と公表が義務づけられた。99%という数字は、20年かけて積み上がったものだ。
内水が全国的な対象になったのは2021年の水防法改正からだ。それまで浸水想定区域の指定対象は地下街など特定の場所に限られ、住宅地は入っていなかった。改正で下水道の浸水対策を行う全自治体が対象になったが、まだ5年しか経っていない。
もう一つ、下水道そのものの設計にも限りがある。日本の雨水排水は1時間あたり50mm程度を計画降雨とするのが一般的だ。千葉市中央区に降ったのは、1時間で115.0mm。
**設計の想定を2倍以上上回る雨なら、下水道が能力どおりに働いても水はあふれる。**
管を太くするには年単位の工事と費用がかかる。地図を作るほうが、先に手が届く。
過去10年に浸水した建物29万棟の内訳
出典:国土交通省 水害統計調査(2013〜2022年)
地図がない場所で家を借りるとき
地図の有無は、災害時の避難だけの話ではない。
2020年8月に宅地建物取引業法の施行規則が改正され、不動産の売買や賃貸の重要事項説明では、水害ハザードマップ上で物件がどこにあるかを示すことが義務になった。対象は洪水、内水、高潮の3種類すべてだ。
ただ、示すべき地図は水防法に基づいて作られたものに限られる。自治体が内水の地図を作っていなければ、説明は「該当する地図はありません」で終わる。
**83%の市区町村では、内水のリスクが伝わらないまま取引が成立する。**
千葉豪雨で亡くなった13人のうち、6人は千葉市だった。政府はアンダーパスへの車の侵入を防ぐ対策の検討を指示している。ただ、排水施設の増強にも道路の改修にも年単位の時間がかかる。
これに対し、未公表の935市区町村という数字は、工事より短い時間で動かせる。2021年の改正で対象はすでに全国に広がっていて、残っているのは地図を作る作業のほうだ。
次に同じ雨が降ったとき、被災した人が「区域外」に立っていたことになるかどうかを決めるのは、雨ではなく地図である。