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「月345円」で少子化は止まるか ── 子ども・子育て支援金、給与天引き開始の衝撃

「月345円」で少子化は止まるか ── 子ども・子育て支援金、給与天引き開始の衝撃

2026年4月始動の新制度。出生数67万人時代に、社会全体で子育てを支える「連帯」の仕組みは機能するか。

2026-05-09

0.23%

子ども・子育て支援金率(2026年度)

5月の給与明細に現れた「月345円」

2026年5月、多くの会社員の給与明細に「子ども・子育て支援金」という新たな控除が加わった。2026年4月に始まった制度で、健康保険料に上乗せして徴収される。

初年度の2026年度の支援金率は0.23%。標準報酬月額30万円の会社員では、労使折半後の本人負担は月345円となる。社会保険料は翌月徴収が一般的なため、4月分が5月給与から差し引かれた。

対象は子どもの有無を問わず、すべての被保険者に及ぶ。国民健康保険の加入者も負担し、年間徴収額は約6,000億円規模。2028年度には支援金率が約0.4%まで上がる計画で、出生数67万人時代の子育てを社会全体で支える仕組みが動き出した。

財源をめぐる争点――なぜ社会保険方式なのか

制度設計で最も議論を呼んだのは財源だった。政府は税金で賄う「税方式」ではなく、社会保険料に上乗せする「社会保険方式」を選んだ。少子化対策の恩恵は社会全体に及ぶため、全世代・全経済主体で負担するという考え方である。

税方式では毎年の予算審議が必要になり、安定財源を確保しにくいという実務上の判断もあった。一方で、野党や与党内からも「実質的な増税ではないか」との批判が出ている。

社会保険料は累進性が弱く、標準報酬月額の上限を超えると負担率が下がる逆進性もある。独身者や子どものいない世帯には受益が見えにくく、「独身税」との呼び方も広がった。制度は始まったが、負担と給付のバランスは今後も検証が必要だ。

年収別負担と段階的な引き上げ

支援金の負担額は年収で変わる。こども家庭庁の試算では、2026年度の月額負担は本人負担分・労使折半後で、年収200万円が月192円、400万円が月384円、600万円が月575円、800万円が月767円、1,000万円が月959円となる。

標準報酬月額だけでなく賞与からも同率で徴収されるため、年収500万円の会社員では年間約5,700円程度の負担とされる。ただし、2026年度の0.23%は入口に過ぎない。

支援金率は2027年度、2028年度と段階的に上がり、最終的に約0.4%へ達する見込みだ。現在の約1.7倍にあたり、標準報酬月額30万円なら本人負担は月345円から約600円へ増える。事業主も同額を負担するため、特に中小企業への影響が懸念される。

年収別・子ども子育て支援金の月額負担額(2026年度・本人負担分)

出典:こども家庭庁

使途の中心は児童手当拡充と妊婦支援

徴収された支援金は、こども家庭庁が示す6つの事業に充てられる。最大の柱は児童手当の拡充だ。2024年10月から支給対象は中学生、つまり15歳年度末までから、高校生年代の18歳年度末までに延長された。

所得制限は完全に撤廃され、すべての子育て世帯が対象になった。第3子以降の支給額も月1万5,000円から3万円へ倍増している。さらに妊婦支援として、妊娠届出時に5万円、妊娠後期以降に胎児数×5万円が支給される。

こども家庭庁の試算では、支援金を財源とする6事業全体で、子ども1人あたり18年間に約146万円の給付拡充となる。ただし146万円は制度全体の試算であり、実際の受給額は世帯構成や所得水準によって変わる。

GDP比1.73%の壁と出生数67万人時代

日本の子育て支援は、国際的に見てもまだ低い。内閣府およびOECDの統計では、家族関係社会支出の対GDP比は日本が1.73%。ドイツは2.39%、フランスは2.85%、イギリスは3.24%、スウェーデンは3.40%で、OECD平均2.34%も下回る。

支援金による年間約6,000億円は差を埋める一歩だが、GDP比では0.1%程度の上積みにとどまる。GDP比3%超のフランスやスウェーデンでは合計特殊出生率が1.5〜1.8と比較的高いが、出生率は支出だけでなく、育休、保育、住宅費、社会意識にも左右される。

日本の出生数は2016年の97.7万人から2024年に68.6万人へ、8年で約30%減った。2025年は推計67.1万人、合計特殊出生率は1.13まで下がる見通しだ。制度単体で反転は難しいが、児童手当拡充が若い世代の判断にどう影響するかは数年先に見えてくる。

家族関係社会支出の対GDP比・国際比較

出典:内閣府・OECD Social Expenditure Database