独自分析
新幹線中速新幹線交通政策インフラ在来線
未着工の新幹線11路線、建設費は1kmあたり150億円に

未着工の新幹線11路線、建設費は1kmあたり150億円に

1973年の基本計画から半世紀、未着工11路線の建設費は1km150億円に達した。2025年「骨太の方針」の文言変更が示すのは、フル規格を前提としない幹線鉄道整備への転換だ

2026-06-17

53年

基本計画路線の未着工期間

53年間「計画」のまま ── 基本計画11路線の現在地

1973年、全国新幹線鉄道整備法に基づき11の「基本計画路線」が告示された。羽越、奥羽、山陰、四国、東九州など、列島各地を高速鉄道で結ぶ構想だ。

53年が経った現在、11路線のうち着工に至ったものはゼロだ。

整備計画に格上げされた5路線は順次開業してきたが、基本計画路線は半世紀にわたり調査段階から一歩も動いていない。

最大の障壁は建設費の高騰にある。整備新幹線の1kmあたり事業費は時代とともに上昇を続けてきた。

  • 盛岡-八戸(2002年開業):47億円/km
  • 新八代-鹿児島中央(2004年):50億円/km
  • 長野-金沢(2015年):74億円/km
  • 金沢-敦賀(2024年):150億円/km

金沢-敦賀間は資材高騰と地質条件の影響で、20年前の約3倍に膨らんだ。11路線をすべてフル規格(最高260km/h以上)で整備すれば数十兆円規模の事業費が必要になる。

整備新幹線 1kmあたり建設費の推移

国土交通省鉄道局・JRTT資料

「骨太の方針」1行の転換 ── フル規格を前提としない選択

この膠着を動かしたのが、2025年の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)だ。

2024年版では「基本計画路線及び幹線鉄道ネットワーク」と並列表記だった文言が、2025年版では「基本計画路線を含む幹線鉄道ネットワーク」に書き換わった。

微修正に見えるが、政策的な意味は大きい。基本計画路線をフル規格新幹線として個別に整備する前提を外し、在来線を含む幹線鉄道全体の中で一体的に扱う方針への転換だ。

代わりに浮上したのが「中速新幹線」構想だ。

  • 最高速度:150〜200km/h(フル規格の6〜8割)
  • 方式:既存の在来線を改軌・信号改良して速度向上
  • コスト:軌道強化なら10kmあたり10億円台、フル規格の数十分の1

JR北海道は中期経営計画で、札幌-旭川間の所要時間を1時間25分から1時間へ短縮する目標を掲げている。中速新幹線の先行モデルになりうる構想だ。

赤字1,825億円の在来線 ── 「速くする土台」が揺らぐ

中速新幹線の最大の前提は「在来線が存続していること」だ。しかし、その土台自体が揺らいでいる。

JR旅客5社のローカル線は2024年度実績で合計約1,825億円の営業赤字を計上した。輸送密度2,000人/日未満の141線区以上がすべて赤字だ。

国土交通省は輸送密度1,000人/日未満の路線について、自治体・事業者・国の三者による「特定線区再構築協議会」での存廃協議を進めている。

構造的なジレンマはここにある。

  • 基本計画路線の沿線は人口減少が最も進む地域と重なる
  • その在来線は維持費すら賄えない赤字状態にある
  • 高速化を計画する頃に線路自体がなくなる可能性がある

2026年度には特定線区再構築協議会の設置対象が複数路線に及び、バス転換や上下分離方式への移行が議論されている。中速新幹線の議論と在来線の存廃判断のタイムラインが重なっている。

改軌と運休 ── 「今ある線路を速くする」の現実

仮に在来線が存続しても、技術的な壁は残る。

200km/h運転には狭軌(1,067mm)から標準軌(1,435mm)への改軌が不可欠だ。前例は1992年の山形新幹線と1997年の秋田新幹線で、いずれも工事期間中は長期運休となり代替バスが投入された。

問題は沿線の人口構造が当時と異なることだ。高齢化率30〜40%に達する地方では、鉄道の運休が通院・買い物の足を直撃する。運送業の人手不足を考えれば代替バスの確保も簡単ではない。

1973年の「全国に新幹線を」という構想は、53年を経て「今ある線路を速くする」に姿を変えた。フル規格に比べればコストは桁違いに安い。だがその現実解が機能するかは、速度や予算の問題ではなく、在来線の存続と工事中の地域の足をどう守るかにかかっている。