「45議席削減」の大義と矛盾 ── 小選挙区制の歪みを放置したまま民意は切り捨てられるのか
自民・維新が推進する衆院定数削減の裏側で問われる「誰のための改革か」
2026-03-25

45
議席削減目標
衆院定数「1割削減」の背景――連立合意が生んだ改革圧力
2025年10月、高市早苗首相率いる自民党は日本維新の会との連立政権を発足させ、連立合意に「衆議院議員定数の1割削減」を盛り込んだ。維新は「身を切る改革」を看板政策とし、これを「最重要項目」と位置づけ、臨時国会での法案成立を強く求めた。同年11月の実務者協議では、「420人を超えない範囲で現行定数465人の1割を目標として削減する」方針が固まった。45人以上の削減は、1994年に中選挙区制、定数511から小選挙区比例代表並立制、定数500へ移行して以降、最大規模となる。12月5日に提出された法案には、施行から1年以内に結論が出なければ小選挙区25、比例代表20を自動削減する条項も入った。先送り防止策とされた一方、十分な審議を経ず定数が変わるとの批判を招いた。JNN世論調査では賛成59%だったが、共産党支持層では反対61.5%と評価は割れた。ところが2026年1月の衆議院解散で法案は廃案となり、2月8日の総選挙で自民党が316議席を獲得したことで力学は変わった。維新が36議席にとどまる一方、自民党は単独で憲法改正発議に必要な3分の2を超えた。今後の削減案は、連立合意を守るのか、自党に有利な形へ修正するのかという自民党の判断に左右される。
得票率49%で議席86%――小選挙区制が生む民意の増幅
定数削減を考える前提として、2026年衆院選が示した制度上のゆがみは見逃せない。自民党は小選挙区で得票率約49%だったが、289議席中249議席を獲得し、議席占有率は86%に達した。得票率との差は37ポイントである。各選挙区で1人だけを選ぶ小選挙区制では、第2位以下の票は議席に結びつかず、野党票が分散すれば第一党への議席集中はさらに強まる。実際、自民党は31都県で小選挙区を独占し、首都圏、すなわち東京・神奈川・千葉・埼玉では79勝1敗だった。一方、比例代表では結果が異なる。自民党の得票率36.7%に対し、議席占有率は38.1%、176議席中67議席で、得票に近い配分となった。中道改革連合は18.2%で42議席、議席占有率23.9%、国民民主党は10.5%で20議席、11.4%、参政党は7.4%で15議席、8.5%を得た。比例代表は少数意見を国会に届ける役割を担っている。自民党の比例得票は2,103万票で、2005年の「郵政選挙」の2,589万票に次ぐ歴代2位だったが、議席配分は得票率に近い水準に収まった。小選挙区の増幅効果に手を付けず比例だけを削れば、民意の反映はさらに偏る。これは特定政党の損得に限らず、制度が民意をどこまで正確に映すかという問題である。
「比例のみ削減」の罠――少数政党の声はどこへ行くのか
2026年2月の衆院選で自民党が圧勝した後、「比例代表のみ削減」論が再び勢いを増した。小選挙区で289議席中249議席を得た自民党にとって、小選挙区の削減は自らの基盤を削る。他方、比例代表は67議席にとどまるため、比例削減の打撃は相対的に小さい。政党戦略としては合理的に見えるが、議会の多様性には重い影響を及ぼす。2026年衆院選では、参政党、チームみらい、共産党、れいわ新選組はいずれも全議席を比例で得た。中道改革連合も49議席中42議席、85.7%、国民民主党も28議席中20議席、71.4%が比例代表である。これに対し、自民党の比例依存度は21.2%、維新は44.4%にとどまる。日経新聞の分析では、比例代表を50議席削減した場合、参政党や保守系小政党は1議席まで縮小する可能性がある。比例代表は、小選挙区では埋もれやすい環境保護、直接民主制、護憲、反グローバリズムなどの主張を国政に届ける通路でもある。そこを細めれば、大政党に有利でも、民主主義の多元性は後退しかねない。共産党は「議会制民主主義を否定する暴挙」と反対し、国民民主党の玉木雄一郎代表も「企業・団体献金禁止を自民党が受け入れない代償としての定数削減であり、本質的な政治改革のすり替えだ」と批判する。問われているのは単に何人減らすかではなく、どの声を国会に残すかである。
各政党の比例代表依存度(2026年衆院選)
総務省 第51回衆議院議員総選挙結果
G7最少水準の議員密度――国際比較が示す不都合な事実
「国会議員が多すぎる」という感覚は、定数削減への支持を支える。しかし国際比較では、日本の議員数はむしろ少ない。参議院常任委員会調査室が2025年に公表した資料によれば、人口100万人当たりの下院、第一院議員数は日本が3.7人である。イギリス21.1人、フランス14.3人、カナダ11.1人、イタリア10.3人、ドイツ9.7人と比べると、G7では米国の1.3人を除いて最少となる。米国は50州が独自の上下両院を持つ連邦国家で、州議会が広範な立法機能を担うため単純比較は難しい。したがって実質的には、日本はG7で最も「薄い」議会を持つ国といえる。衆議院議員1人当たりの人口は約27万人で、イギリスの4.6万人、フランスの7万人を大きく上回る。議員1人が担う有権者が多いほど、地域の声や個別課題は国政に届きにくくなる。地方の過疎地域では、広い面積と複数市町村を1人でカバーする負担も大きい。過去30年間に議員定数を減らしたG7は日本、イタリア、イギリスの3カ国に限られ、日本の削減率は6.6%だった。イタリアは35.9%削減したが、それでも人口100万人当たり議員数は10.3人で、日本の5.8人、衆参合計の約2倍である。465議席から420議席へ減らせば、衆議院は約3.4人まで低下する。「身を切る改革」を論じる前に、日本の議会がすでに先進国でもかなり小さいという事実を確認する必要がある。
G7 人口100万人当たり下院議員数
参議院常任委員会調査室(2025年)
分岐点に立つ日本の民主主義――必要なのは制度全体の再設計
世論調査は、定数削減への支持と制度改革への期待が同時に存在することを示している。時事通信の2026年1月調査では、定数削減法案の成立に賛成56.1%、反対15.7%。JNN調査でも賛成59%、反対25%だった。維新支持層では賛成81.5%、自民支持層で63.5%、国民民主支持層で76.2%に達し、「まず議員が身を切るべきだ」という感覚は広い。一方、日経・テレビ東京の2025年12月調査では、「定数削減と選挙制度自体の見直しを一体ですべきだ」が56%で、「定数削減のみをすべきだ」の24%を大きく上回った。「定数削減をする必要はない」は13%にとどまり、国民は単なる数減らしではなく、制度全体の見直しを求めているとも読める。地方からは懸念も強い。共同通信の全国知事アンケートでは、47知事中14人が反対または懸念を表明した。理由は「地方の声が国政に反映しづらくなる」が10知事、「多様な価値観が国政に反映しづらくなる」が6知事、「拙速に進めるべきではない」が5知事だった。賛成は5知事にとどまり、28知事は態度を明確にしなかった。国民民主党が提起する「中選挙区連記制」や、自民・維新の連立合意にある「小選挙区比例代表並立制の廃止」も、現行制度の再検討が政治課題になっていることを示す。465から420へという45議席の削減は、小選挙区制の増幅効果、比例代表の多様性、地方代表、少数政党の存続に直結する。必要なのは、数の削減だけでなく、民意をどう国会に届けるかという制度設計の議論である。
定数削減の方向性に関する世論
日本経済新聞・テレビ東京 世論調査(2025年12月)