独自分析
食料システム法食料自給率農業価格転嫁フードGメン
食料システム法が施行。価格を見張る「フードGメン」は全国18人

食料システム法が施行。価格を見張る「フードGメン」は全国18人

農林水産業のコスト転嫁率は全産業平均より1割低い約3割。2026年4月に施行された食料システム法は「努力義務」と監視で価格の適正化を図る。担い手が25年で57%減った産業で、コスト構造の可視化が持つ意味をデータから読む

2026-06-26

38%

食料自給率(カロリーベース・G7最低)

「コスト割れ」に法律が介入した

2026年4月、食料システム法が全面施行された。正式名称は「食品等の持続的な供給を実現するための法律」。農産物の生産コストを価格に反映する仕組みを法制化した、日本初の試みだ。

指定品目は5つ。

  • 野菜
  • 豆腐
  • 納豆
  • 飲用牛乳

業界団体が品目ごとの「コスト指標」を作成し、生産者が価格交渉の根拠として使える。買い手側には交渉に誠実に応じることが「努力義務」として課された。

監視役を担うのが「フードGメン」だ。2025年10月に発足し、農水省本省と全国の地方農政局に計18人が配置された。取引実態をアンケートやヒアリングで把握し、不当な交渉拒否や補助金分の値引き強要があれば、公正取引委員会への通知も行う。

この法律の背景にあるのは、長年のデフレ下で定着した「コスト割れ取引」だ。農業の現場では、生産コストを下回る価格での出荷が常態化し、農家経営を圧迫してきた。

転嫁率3割 ── 農業だけが取り残された構造

帝国データバンクの調査によると、農林水産業のコスト転嫁率は約3割。全産業平均の4割を下回り、業種別で最低水準にある。

日本農業法人協会の2023〜24年調査では、さらに厳しい実態が浮かぶ。コスト高騰を受けて「価格転嫁した」と回答した農業法人は全体の45%。残る55%は転嫁できていない。

なぜ農業だけが値上げできないのか。

構造的な原因は、買い手と売り手の交渉力格差にある。農産物の大口買い手は大手小売チェーンや食品メーカー。売り手は中小規模の生産者が大半だ。取引先の選択肢が限られる中で、「この価格でなければ買わない」という力学が長年にわたり固定化してきた。

2025年、食品の値上げは2万609品目に達した。前年比64.6%増だ。値上げ要因の94.6%が原材料高、89.9%が物流費。しかし、その負担はサプライチェーンの川上にあたる農業者に偏る構造が続いている。

25年で57%減 ── 価格と担い手は連動する

農林業センサスの数字は明快だ。基幹的農業従事者は2000年の240万人から2025年に103.6万人へ、25年で57%減った。

平均年齢は67.7歳。65歳以上が全体の69.6%を占め、49歳以下はわずか12.6%にとどまる。直近5年間の減少率は24%に達し、離農の加速が止まらない。

2025年には平均年齢が1995年以降で初めて低下した。だがこれは若手の流入ではなく、75歳以上の大量離農の結果だ。「退場」による見かけの若返りにすぎない。

一方、1経営体あたりの耕地面積は3.7haと5年前から19.4%拡大した。少数の大規模経営体への集約は進んでいる。

だが、コスト割れの価格構造が新規参入を阻み、担い手不足が交渉力をさらに弱めるという循環が続いている。この構造的な連鎖が、食料自給率38%の底流にある。

基幹的農業従事者の推移

農林水産省「農林業センサス」

コメ98%、大豆7% ── 二極の間にある品目の行方

品目別自給率には、はっきりした二極構造がある。

コメ98%、鶏卵97%。これらは国産で安定している。対して小麦17%、大豆7%、油脂類3%。すでに海外依存に転換した品目群だ。

食料システム法が対象とする5品目は、この二極の「中間」に位置するものが多い。野菜の自給率は76%、飲用牛乳は62%。いまは国産比率が高いが、担い手の減少次第で急落しうるラインにある。

G7各国との比較でも、日本の38%は最低水準だ。フランス121%、アメリカ104%、ドイツ83%、イギリス58%。いずれも日本を大きく上回る。

コスト指標の公表は、「この食品を作るのにいくらかかるか」を社会全体で共有する試みだ。努力義務に強制力はない。だがコスト構造が可視化されること自体が、食の値段に対する認識を変える契機になりうる。

担い手が年間3%ずつ減り続ける産業で、「適正な価格とは何か」を問い直すこと自体が、食料供給の持続可能性への出発点になる。

主要品目別の食料自給率(2023年度)

農林水産省「食料需給表」

食料自給率の国際比較(カロリーベース・2021年)

農林水産省「食料需給表」