独自分析
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農業従事者「5年で25%減」の現実 ── 食料システム法が届かない現場

農業従事者「5年で25%減」の現実 ── 食料システム法が届かない現場

価格転嫁の努力義務化は始まった。だが平均年齢67.6歳・102万人の担い手に、公正な交渉の場だけでは足りない

2026-06-05

25.1%

農業従事者 5年間の減少率

4月施行、食料システム法とは何か

2026年4月、「食料システム法」が全面施行された。

柱は、農産物の取引において「合理的な費用を考慮した価格形成」を当事者に努力義務として課すこと。第三者機関が品目ごとの「コスト指標」を作成・公表し、農家はこの指標を根拠に流通業者と価格交渉を行う。

背景には生産コストの急騰がある。

  • 肥料費:3年前の1.3倍
  • エネルギーコスト:3年前の1.2倍
  • 食品産業の55%がコスト上昇分を販売価格に転嫁できていない

2025年には食品2万609品目が値上げされた。だがその値上げ分が農家の手取りに還元されているとは限らない。「消費者は高く買い、農家は安く売る」──この流通構造に法的な是正の枠組みを設けたのが食料システム法だ。

「努力義務」が持つ構造的な限界

食料システム法の価格転嫁規定は「努力義務」にとどまる。罰則はない。

下請法の「買いたたき禁止」とは異なり、違反しても行政処分の対象にならない。「誠実に協議してください」という制度設計だ。

農産物の流通構造を考えると、この限界は大きい。

  • 個人農家の平均耕作面積は約2ヘクタール
  • 取引先はJAや大手卸、スーパーチェーン
  • 価格の決定権は買い手側に偏っている

コスト指標が公表されても、買い手が「この価格でしか仕入れない」と判断すれば、売り先の限られた農家に選択肢は少ない。努力義務は交渉の入口にはなるが、結果を保証しない。

5年で4分の1が消えた担い手

価格転嫁以上に深刻な問題がある。農業の「作り手」そのものが急速に減っている。

2025年の農林業センサスが示した数字は明確だ。

  • 基幹的農業従事者:102万1千人(2020年比25.1%減)
  • 減少率は1985年以降で過去最大
  • 農業経営体数:82万8千(10年間で54万9千減少)
  • 平均年齢:67.6歳
  • 65歳以上の割合:69.5%

2000年に240万人いた担い手が、25年間で102万人になった。7割が65歳以上。今後5〜10年で大量の離農が起きる世代構成だ。

食料システム法は「コストに見合う価格で取引されれば農業は持続する」という前提で設計されている。だが現場では、資材高騰に加え体力的な限界や後継者の不在が離農の主因になっている。価格が適正になっても、畑に立つ人がいなければ作物は育たない。

基幹的農業従事者数の推移

農林水産省 農林業センサス

自給率38%の「底」はどこか

日本の食料自給率はカロリーベースで38%。4年連続で同水準だ。

国際比較で見ると位置づけが鮮明になる。

  • オーストラリア:233%
  • カナダ:204%
  • フランス:121%
  • 日本:38%

G7最低水準。食料の約6割を輸入に依存している。

この38%が「安定した底」ではない点に注目したい。農業従事者の減少が加速し、耕作放棄地は拡大が続いている。生産力が縮小に向かえば、現状維持すら難しくなる。

世界の食料需要は人口増で拡大基調にある。気候変動による不作リスクも高まっている。国内で「作れる量」が減り、海外から「買える保証」も揺らぐ。この2つが重なれば、自給率38%は下方圧力を受ける。食料システム法は「価格」を扱う法律だが、自給率を左右するのは「生産量」であり、生産量を決めるのは「人」だ。

主要国の食料自給率(カロリーベース)

農林水産省(2022年度推計)

価格の先にある設計図

食料システム法は必要な一歩だ。価格が適正でなければ、農家の経営は成り立たない。

だが農業の構造問題は、「安く買い叩かれるから辞める」から「収益に関係なく後継者がいない」へ移行しつつある。

今後の論点は3つに整理できる。

  • 努力義務の実効性を高める制度設計。義務化や、交渉プロセスを監視する第三者機関の設置
  • 新規就農の障壁を下げる施策。農地取得の簡素化、初期投資への支援、住居確保のパッケージ化
  • 少人数で回る生産体制の構築。スマート農業やロボット技術の普及加速

農業従事者が100万人を下回る時期は、もはや予測ではなく時間の問題だ。食料システム法が「価格の公正さ」を整えている間にも、食料をつくる力は縮み続けている。

自給率38%の維持には、価格の整備に加え「誰が作るのか」という問いへの具体的な回答が必要になる。