30分500円の体験レッスン。フリーランス法で初の買いたたき勧告
行政措置は1,552件、うち勧告は10件。違反の8割は金額より前の「決めていない」だった
2026-08-11
9.2%
違反のうち買いたたきの割合
30分500円が、初めて「安すぎる」と判断された
公正取引委員会は2026年6月22日、河合楽器製作所に勧告を出した。音楽教室の体験レッスンを担当した講師28人への報酬が、フリーランス法の買いたたきにあたると判断された。
**報酬額の低さそのものを理由にした勧告は、2024年11月の法施行後で初めてだ。**
同法は発注側に取引条件の明示と報酬の期日払いを義務づけ、著しく低い報酬での発注を禁じている。今回はこの最後の一つに、行政が初めて踏み込んだ。
公取委によると、体験レッスンの報酬は通常レッスンの対価に比べ、約33.9%から約72.3%低い水準に据え置かれていた。日本経済新聞の報道では、その額は30分500円だった。
通常レッスンの報酬は講師の熟練度によって変わる。だが体験レッスンだけは、誰が担当しても同じ額だった。
同社は勧告を受け、2024年11月の発注分までさかのぼって是正すると公表している。
違反の8割は、金額の話ですらない
ただし、買いたたきはフリーランス法違反のなかでは少数派にあたる。
公取委が2026年6月10日に公表した令和7年度の運用状況によると、違反行為は2,727件(重複計上)だった。内訳はこうなる。
- 報酬支払期日の義務違反:1,135件(41.6%)
- 取引条件の明示義務違反:1,126件(41.3%)
- 買いたたき:250件(9.2%)
**上位2つだけで、全体の8割を超える。**
どちらも報酬が安いという話ではない。いつ、いくら払うのかを決めていない、あるいは書面で示していないということだ。
違反の入口は、単価の交渉よりも手前にある。契約の形が整わないまま始まる発注が、そのまま件数に表れている。
フリーランス法の違反行為 類型別件数(令和7年度)
出典:公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス法第2章の運用状況」
相談は1万7千件、正式な申出は604件
では、当事者はどこまで声を上げているのか。
令和7年度、フリーランス向けの窓口に寄せられた件数はこうなる。
- フリーランス・トラブル110番:13,400件
- 全国の相談窓口:4,351件
- 違反の疑いを行政に申し出た件数:604件
**相談の合計1万7,751件に対し、申出は604件。比率にすると3.4%だ。**
申出は、発注元を名指しする行為になる。取引を続けたい相手を相手取るのは簡単ではない。
行政の措置は1,552件で、内訳は勧告10件と指導1,542件だった。取り戻された報酬は総額1,734万円、措置1件あたりに換算すると約1.1万円になる。
1件あたりの金額が小さいのは、被害が小さいからとは限らない。集計されているのは、窓口に届いた分だけだ。
しかも社名が公表されるのは勧告10件のみで、指導1,542件がどの会社だったかは外からは分からない。
相談から勧告までの件数(令和7年度)
出典:公正取引委員会、フリーランス・トラブル110番
次の焦点は「比べられる単価」があるかどうか
今回の勧告が新しいのは、行政が報酬額そのものに踏み込んだ点だ。
買いたたきは「同種の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い額」と定義されている。認定するには比較対象がいる。
河合楽器のケースでは、同じ講師が担当する通常レッスンという社内の比較材料があった。だから「約33.9%から約72.3%低い」と数字で書けた。
**逆に言えば、比較対象を持たない仕事ほど、買いたたきの認定は難しくなる。**
行政措置の業種別で最も多いのは情報通信業の575件(37.0%)だった。案件ごとに内容が違う受託開発やデザインでは、相場の物差しをつくりにくい。同じ人が同じ場所で行う別メニューという音楽教室の形は、むしろ例外にあたる。
だとすれば、当面の焦点は明示義務のほうに戻る。いつ、いくら払うかが書面に残る取引が増えて、はじめて比較の材料がそろうからだ。買いたたきが9.2%から広がるかどうかは、明示義務違反の41.3%をどこまで減らせるかにかかっている。
行政措置の業種別内訳 上位3業種(令和7年度)
出典:公正取引委員会「令和7年度におけるフリーランス法第2章の運用状況」