CO2の排出量取引が日本で開始。1トン1,700円はEUの7分の1
2026年4月、年間10万トン以上を排出する約300社にCO2排出枠の取得が義務化された。基準取引価格は1トン1,700円。だがEUでは同じ1トンが約1万1,500円で取引されている。2028年の化石燃料賦課金、2033年の有償オークションと段階的に引き上げる設計だが、EUの炭素国境調整措置(CBAM)は既に本格適用が始まった
2026-07-04
1,700円
日本のCO2排出枠 基準取引価格/トン
289円が、ようやく1,700円になった
日本のCO2排出に、法的な価格がついた。
2026年4月、GX推進法に基づく排出量取引制度「GX-ETS」が本格稼働した。CO2を年間10万トン以上直接排出する企業が対象で、電力・鉄鋼・化学・セメント・石油・紙パルプなど約300社が義務参加する。
日本全体のCO2排出量は年間約10億トン。GX-ETSはそのうち産業・エネルギーの大口排出源にまず網をかけた。
これまで日本にあったのは、2012年導入の地球温暖化対策税(温対税)のみ。税率はCO2 1トンあたり289円。ガソリン1リットルに換算するとわずか0.76円だ。
GX-ETSの基準取引価格は1トン約1,700円、上限でも約4,300円。289円から14年で約6倍になったが、この数字の意味は先行する国々と並べると見えてくる。
同じ1トンの値段が、7倍違う
2026年4月時点で、EUの排出量取引制度(EU ETS)のCO2取引価格は1トンあたり約72ユーロ。円換算で約1万1,500円だ。
日本のGX-ETS基準価格1,700円との差は約7倍。上限の4,300円と比べても約2.7倍の開きがある。スウェーデンの炭素税は1トン約137ドル(約2万円)で、日本の12倍にあたる。
年間10万トンを排出する企業の炭素コストを比べると差は明確だ。
- 日本(温対税のみ):年間約2,900万円
- 日本(GX-ETS基準):年間約1.7億円
- EU ETS水準:年間約11.5億円
同じ排出量でも負担が7分の1なら、高額な脱炭素設備を導入するより排出枠を購入する方が安い。カーボンプライシングの目的は「CO2を出すと損になる」仕組みを作ることだが、1,700円でその動機が生まれるかが論点になる。
CO2排出1トンあたりの価格(国際比較・2026年・円換算)
経済産業省、EEX、Tax Foundation
全量無償から有償オークションまで7年
GX-ETSは段階的に負担を引き上げる設計になっている。
- 2026年度:GX-ETS本格稼働。排出枠は全量無償割当
- 2028年度:化石燃料賦課金を導入。石油・天然ガス・石炭に上乗せ
- 2033年度:発電部門で有償オークション開始(割当の約10%から)
原資にはGX経済移行債20兆円を充て、今後10年で150兆円超の官民グリーン投資を呼び込む計画だ。
ただし2026年度は排出枠が全量無償のため、企業の追加負担は限定的だ。「CO2に値段がついた」とはいえ、コストが本格化するのは2028年の賦課金導入からになる。
制度開始から実質負担まで2年、有償オークションまで7年。産業への急激な負荷を避ける設計には合理性がある。だが外部環境はこのペースを待ってくれるとは限らない。
年間10万トン排出企業の炭素コスト比較
経済産業省、EEX より試算
炭素コストの行き先
EUの炭素国境調整措置(CBAM)が2026年1月に本格適用された。鉄鋼・セメント・アルミ・肥料・電力・水素が対象で、輸出国の炭素価格がEU水準より低い場合、差額をEU側に支払う仕組みだ。
日本の鉄鋼業界のCBAM負担は年間約540億円と試算されている。日本の炭素価格が低い期間が続くほど、その差額は国内のグリーン投資ではなくCBAM納付金として域外に流れる。
2033年の有償オークション開始までにEUがCBAM対象品目を拡大する可能性もある。1,700円からの出発自体は現実的な選択だ。問題はそこからの引き上げ速度にある。
速ければ炭素コストは国内に循環し脱炭素投資の原資になる。遅ければCBAMを通じて域外に流出する。同じコストを最終的に誰が受け取るかは、段階的引き上げのカーブ設計にかかっている。