ヘルパーの移動が30分でも8分でも、訪問介護の報酬は同じだ
2027年度の介護報酬改定で、中山間地域には月額の包括報酬を選べる仕組みが入る。2024年度に新設した3%の加算は、算定率0.2%だった
2026-10-15
30分と8分
訪問介護事業所の移動時間の差(厚労省調査)
移動30分の事業所と、移動8分の事業所
訪問介護の報酬は、訪問1回ごとの出来高で決まる。身体介護なら「20分以上30分未満で244単位」「30分以上1時間未満で387単位」という時間区分だ。
ここに移動時間は入らない。利用者宅まで何分かけても、1回分の報酬は変わらない。
厚生労働省が6月29日の介護給付費分科会に出した資料に、その差が出ている。移動時間の平均はこうだ。
- 同一建物減算のない事業所:30分弱
- 都市部で同一建物減算のある事業所:8分程度
- 地域別の平均は中山間・離島等が21.6分、都市部が24.6分
同一建物減算は、同じ敷地や隣接する建物に住む利用者が多い事業所の報酬を減らす仕組みだ。集合住宅の中で訪問が完結するほど、移動は短くなる。
ただし「減算なし」の事業所は全体の71.4%を占める。一軒ずつ回る事業所が多数派だ。
移動が8分なら、ヘルパー1人が1日に回れる件数は増える。30分かかれば増えない。単価が同じでも、1時間あたりに積み上がる報酬は変わる。
訪問介護事業所の移動時間(平均)
出典:厚生労働省 第259回介護給付費分科会 資料1「訪問介護」(2026年6月29日)
収支差率9.6%と倒産91件
訪問介護の収支差率(令和6年度決算、物価高騰対策の補助金を含まない税引き前)は9.6%だった。全サービスの平均4.7%の2倍を超える。
推移はこうなっている。
- 令和3年度 5.8%
- 令和4年度 7.8%
- 令和5年度 11.1%
- 令和6年度 9.6%
この数字だけ見れば、訪問介護は居宅サービスのなかで収益性が高い部門に見える。2024年度の改定で基本報酬が引き下げられたときも、この水準が根拠に挙げられた。
一方、東京商工リサーチの集計では、2025年の訪問介護事業者の倒産は91件で3年連続の最多更新だった。8割超が売上不振を原因とし、破産は86件に上る。
**平均が9.6%でも倒産が増えるのは、その平均に移動8分の事業所と移動30分の事業所が混ざっているからだと読める。**
分科会の資料も、論点にこう書いている。訪問介護の収支状況は「全国平均による多寡だけを見るのではなく」検討する必要があるのではないか、と。平均値を示した側が、平均では判断できないという立場をとっている。
訪問介護の収支差率の推移(税引き前、物価高騰対策の補助金を含まない)
出典:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」
中山間地域向けに新設された3%の加算
2024年度の改定では、移動の負担を加算で埋める試みもあった。特定事業所加算Ⅴだ。
中山間地域等で継続的にサービスを提供する事業所を評価する区分で、所定単位数の3%が上乗せされる。
算定率はこうだった(令和7年10月サービス提供分)。
- 全体:0.2%
- 中山間地域等:1.0%
- 都市部:0.1%
中山間地域等にある訪問介護事業所は5,538カ所ある。そのうち加算を取れたのは1%だ。要件には重度者への対応や人員体制が組み合わされており、人手が足りない事業所ほど届きにくい。
同じ改定で処遇改善の加算は訪問介護で最大24.5%に設定され、2026年6月の臨時改定で最大28.7%まで上がった。こちらは加算Ⅰの算定率が36.4%で、広く使われている。
ただし処遇改善の加算は職員の賃金に充てる前提の仕組みで、移動にかかる時間や燃料費を埋める設計ではない。加算を足し重ねる方法では、移動の差は評価しきれなかった。
特定事業所加算Ⅴの算定率(事業所ベース、令和7年10月サービス提供分)
出典:厚生労働省 第259回介護給付費分科会 資料1「訪問介護」
特定地域サービスという新しい類型
2026年4月3日に閣議決定された介護保険法等の改正案は、中山間・人口減少地域に「特定地域サービス」という類型を設けた。都道府県が「特定地域」を定めて人員配置基準を緩め、訪問介護では出来高払いに加えて月額の包括評価を選べるようにする。施行は2027年度だ。
10月14日の分科会では、通所介護の同一建物減算を廃止して基本報酬を細分化する案も示された。訪問介護の中山間・人口減少地域の提供体制は、別の回で議論するとされている。
定額の報酬にしても移動時間は短くならない。変わるのは、件数が伸びない地域でも月の収入が読める点だ。
訪問介護事業所が1カ所もない自治体は、2024年末で107町村あった。残り1カ所の自治体は272ある。ゼロの町村に住む人は約37万人だ。
65歳以上が払う介護保険料は全国平均で月6,225円だ。保険料の額も、サービスを買えるかどうかも、住む場所で変わる。2027年度の改定は、そこに報酬の形の違いを持ち込む最初の改定になる。
出典
- •厚生労働省 第259回介護給付費分科会 資料1「訪問介護」(2026年6月29日)
- •厚生労働省 令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要
- •厚生労働省 第270回介護給付費分科会 開催案内(2026年10月14日)
- •GemMed デイサービスの同一建物減算を廃止し基本報酬の細分化など検討
- •マイナビ 過疎地の介護維持へ新スキーム 法案決定「特定地域」で人員基準緩和
- •東京商工リサーチ 2025年「訪問介護」倒産91件
- •梅原英治「訪問介護事業所が消えていく」大阪経大論集76巻1号(2025年5月)
- •厚生労働省 第9期介護保険料基準額(全国平均月6,225円)
- •厚生労働省 令和7(2025)年度 介護給付費等実態統計の概況
- •NHK 訪問介護の介護報酬の枠組み 抜本的見直しで検討