年金155万円を1円超えると、特養の食費と部屋代が年28万円上がる
年金は4年連続で増額。住民税非課税の判定ラインは据え置きのまま
2026-08-20
28万円
非課税から外れたときの特養の年間負担増
4年続けて増えた年金と、動かない155万円
2026年度の年金は、基礎年金が1.9%、厚生年金の報酬比例部分が2.0%上がった。増額は4年連続だ。
国民年金の満額は月70,608円で前年度より1,300円、厚生年金の標準的な夫婦2人世帯は月237,279円で4,495円の増額になる。
一方で、住民税がかかるかどうかの判定ラインは動いていない。東京23区など1級地の単身高齢者だと、前年の合計所得45万円以下が非課税の境目になる。公的年金等控除110万円を足すと、**年金収入155万円**がラインだ。
しかもこの額は住む市町村で変わる。級地区分が2級地なら年金収入151万5,000円、3級地なら148万円が境目になる。
つまり、年金収入153万円だった人が2%増えると、1級地の155万円を超える。増えた分は年3万円ほど。ここから負担がどう変わるかを見ていく。
年金額改定率の推移(新規裁定者)
出典:厚生労働省「年金額改定について」各年度
補足給付から外れると、1日781円の差がつく
介護保険には補足給付(特定入所者介護サービス費)という仕組みがある。特別養護老人ホームなどに入るとき、食費と居住費に上限を設ける制度だ。
要件は、本人と同じ世帯の全員が住民税非課税であること。預貯金が単身1,000万円以下という条件も付く。
ユニット型個室だと、1日あたりの負担は段階でこう変わる。
- 第3段階②(年金収入120万円超で世帯非課税):居住費1,370円+食費1,360円=2,730円
- 第4段階(課税世帯):基準費用額の居住費2,066円+食費1,445円=3,511円
差は1日781円。1年に直すと約28万5,000円になる。非課税から外れた時点で補足給付の対象ではなくなり、施設が定める基準費用額を全額払うからだ。
年金が3万円増えたことで、施設への支払いが28万円増える。
特養ユニット型個室の食費と居住費(1日あたり)
出典:厚生労働省 特定入所者介護サービス費の負担限度額と基準費用額
課税か非課税かで切り替わる制度が並んでいる
負担が跳ねるのは施設の費用だけではない。住民税の課税と非課税をそのまま判定に使う制度が、介護保険にいくつも並んでいる。
- 介護保険料:世帯非課税の第3段階は基準額の0.685倍、本人が課税される第6段階は1.2倍
- 高額介護サービス費:月の自己負担上限は世帯非課税で24,600円、課税世帯で44,400円
- 補足給付:世帯全員が非課税であることが要件
第9期(2024年度から2026年度)の全国平均の基準額は月6,225円、年74,700円だ。国が示す標準の乗率で計算すると、第3段階の年51,170円が第6段階では89,640円になる。差は年3万8,000円だ。
所得税や住民税そのものは、所得が増えた分だけ少しずつ増える。だが介護の負担は段で決まる。所得が1円動いただけでも、判定は課税か非課税のどちらかに振り分けられ、負担は段ひとつ分まとめて動く。
65歳以上の介護保険料 年額(全国平均の基準額で試算)
出典:厚生労働省 第9期介護保険料の全国平均基準額と国が示す標準乗率
非課税世帯は毎年少しずつ減っていく
年金額は物価と賃金の動きに連動して毎年改定される。物価上昇が続く限り、名目の年金額は上がっていく。
対して、判定に使う合計所得45万円という数字は物価に連動しない。補足給付の預貯金1,000万円以下という要件も同じで、金額を固定した条件は物価が上がるほど実質的に厳しくなる。
国民生活基礎調査では、65歳以上の世帯のおよそ38%が住民税非課税世帯にあたる。ラインが止まったまま名目の年金だけが伸びれば、この割合は毎年少しずつ下がる。毎年一定の人数が境目を越え、そのたびに増えた年金額を上回る負担増が生じる形になる。
段差を緩めるとすれば、論点は2つに絞られる。境目の付近で所得段階を細かく刻むか、判定ラインそのものを物価に連動させるかだ。
どちらにも手が付かなければ、改定率が発表されるたびに同じことが繰り返される。年金の改定率はあくまで名目の数字であり、境目に近い人にとっての実質は、その数字とは逆を向くことがある。