独自分析
介護報酬改定介護人材社会保障処遇改善賃上げ
介護報酬改定で月1.9万円の賃上げ。それでも全産業と月8万円差

介護報酬改定で月1.9万円の賃上げ。それでも全産業と月8万円差

2026年6月、臨時改定で介護職に最大月1.9万円の増額が実現した。だが全産業との月収差は約8.2万円。離職理由1位は「人間関係」で34.3%──賃上げだけでは解けない人材確保の構造を、データから読む

2026-06-27

8.2万円

介護職と全産業の月収差

「異例の前倒し」── 臨時改定の中身

介護報酬は通常3年に1度の改定だ。2026年6月、その原則を破る臨時の期中改定が施行された。背景には介護分野の深刻な人手不足がある。

改定率は+2.03%。国費ベースで518億円を投入する。

賃上げは「3階建て」の設計になっている。

  • ベース: 介護従事者全体に月1万円(+3.3%)
  • 上乗せ: 生産性向上に取り組む事業所の介護職員に月0.7万円(+2.4%)
  • 定期昇給: 月0.2万円

最大で月1.9万円、年間約22.8万円の増額だ。

対象範囲も拡大された。従来は介護職員限定だった処遇改善加算が、ケアマネジャー・看護師・リハビリ職にも適用される。訪問看護1.8%、居宅介護支援2.1%の加算率が新設された。

ただし上乗せの0.7万円には条件がある。ケアプランデータ連携システムの導入など、生産性向上の要件を満たす必要がある。

介護職員と全産業の平均月収比較

厚生労働省 賃金構造基本統計調査

月8万円の格差は4分の1しか縮まらない

介護職員の平均月収は約31.4万円(賞与込み)。全産業平均(役職者除く)は39.6万円だ。

差は約8.2万円。今回の最大1.9万円を足しても6.3万円が残る。格差の約4分の1を埋めたにすぎない。

しかも月1.9万円は「条件付きの最大額」だ。DX導入要件を満たした事業所の介護職員のみが対象で、ベースの1万円にとどまるケースも多いとみられる。

もう1つ構造的な問題がある。2026年春闘の全産業平均賃上げ率は5%を超えた。全産業の月収がさらに上がれば、介護との差は再び開く。

追いかけても距離が縮まらない状態が続くリスクがある。介護報酬の改定サイクル(3年に1度)と、民間の賃上げスピードの「時間差」が格差を構造的に固定化している。

辞める理由の1位は「お金」ではない

介護労働安定センターの令和6年度調査は、政策と現場の「ずれ」を映している。

離職理由の上位は以下だ。

  • 1位: 職場の人間関係(34.3%)
  • 2位: 運営方針への不満(19.8%)
  • 3位: 収入が少なかった(16.6%)
  • 4位: 他に良い仕事があった(15.3%)

「人間関係」の内訳では「上司のパワハラ等」が49.3%、「管理能力の低さ」が43.2%を占める。現場マネジメントの質が離職を左右している。

一方で離職率は12.4%と過去最低を記録し、全産業平均14.2%を下回った。「辞める人」は減った。

問題は「入ってくる人」の不足だ。事業所の65.2%が人材不足を訴えている。介護業界はいま「定着は改善したが、採用力が追いつかない」段階にある。

介護職員の主な離職理由

介護労働安定センター 令和6年度介護労働実態調査

57万人不足に向けて──「賃上げ×DX」の先に要るもの

厚労省推計では、2026年度に25万人、2040年度に57万人の介護人材が不足する。年間6.3万人ペースの新規確保が必要だ。

今回の改定には注目すべき設計がある。賃上げの上乗せ条件にDX導入を組み込んだ点だ。

記録や連絡の業務を効率化し、1人あたりの負荷を下げる。賃上げと生産性向上をセットにする設計は、人材確保策として合理的だ。

だがデータは「次の課題」も指している。離職理由の3分の1を占める職場マネジメントの質は、現行の報酬体系にほとんど反映されていない。

賃上げは人材確保の入口だ。「働き続けたい職場」をどう制度で評価するか。マネジメントの質や職場環境を報酬に紐づける仕組みが、57万人不足に向けた設計の本丸になる。

介護人材の不足見込み

厚生労働省推計