独自分析
カスタマーハラスメント労働施策総合推進法措置義務厚生労働省職場のハラスメント
カスハラ対策が10月に義務化。義務を負うのは客ではなく会社だ

カスハラ対策が10月に義務化。義務を負うのは客ではなく会社だ

相談があった企業は27.9%に増えた。でも受けた人の3.8%しか、社内の相談窓口を使っていない

2026-08-29

3.8%

社内の相談窓口に相談した人

10月に始まる義務の中身

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行される。

カスタマーハラスメント対策が、従業員を1人でも雇うすべての事業主の義務になる。パワハラ防止法のときに設けられた中小企業の猶予期間は、今回はない。

厚生労働省は2026年2月26日に指針を告示した(令和8年厚生労働省告示第51号)。企業に求められるのは3つだ。

  • カスハラを許さない方針を決めて社内に周知する
  • 相談できる窓口と体制を整える
  • 起きた後に事実確認をして、被害を受けた従業員を守る

何がカスハラに当たるかは、顧客等の言動であること、社会通念上許容される範囲を超えること、働く人の就業環境が害されること、この3つがそろったときとされる。

義務に違反しても刑事罰はない。厚生労働大臣の助言、指導、勧告があり、勧告に従わない場合は企業名が公表される。

なぜカスハラだけ相談が増えているのか

厚労省の令和5年度調査では、過去3年間にカスハラの相談があった企業は27.9%で、令和2年度から8.4ポイント増えた。

相談件数の変化を企業に聞くと、カスハラは「増えている」23.2%が「減っている」11.4%を上回る。パワハラやセクハラはいずれも逆で、減っているという回答のほうが多い。

一方、働く人に聞いた経験率は下がっている。過去3年間にカスハラを受けたのは10.8%で、令和2年度の15.0%より4.2ポイント低い。

**受けた人は減り、会社に上がる件数は増えた。増えたのは被害の総量ではなく、会社まで届く割合だと読める。**

カスハラは、今回の改正まで、主なハラスメントの中で唯一、事業主の措置義務が置かれていない類型だった。届く件数のほうが先に増え、制度があとから追いついた形になる。

過去3年間に相談があった企業の割合(令和5年度)

出典:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」

相談は誰に向かっているのか

届き方には偏りがある。

カスハラを受けた人がとった行動(複数回答)で最も多いのは「社内の上司に相談した」38.2%、次が「何もしなかった」35.2%だった。社内の相談窓口に相談した人は3.8%にとどまる。

窓口の整備は今回の義務の柱のひとつだが、実際に受け止めているのは、その場にいる上司である。

会社に上がった時点では、話はもうはっきりしている。相談があった事例のうち企業が「該当する」と判断した割合は、カスハラが86.8%で、パワハラの73.0%より高い。判断に迷う段階では相談されず、明白なものだけが上がっていると読める。

業種の偏りも大きい。相談があった企業の割合は次の順だ。

  • 医療、福祉 53.9%
  • 宿泊業、飲食サービス業 46.4%
  • 不動産業、物品賃貸業 43.4%

最も高い業種と最も低い業種の差は45.1ポイントある。

カスハラを受けた人がとった行動(複数回答)

出典:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」

相談のうち企業が「該当する」と判断した割合(令和5年度)

出典:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」

10月以降、現場で何が変わるのか

今回の義務は、客の行為そのものを規制するものではない。義務を負うのは雇う側だ。

自治体の条例も形は同じで、2025年4月に施行された東京都、北海道、群馬県の条例は、いずれも行為者への罰則を置いていない。行為者を直接規制する規定は、改正法にもこれらの条例にも置かれていない。

同じ調査で、企業が今後必要な取組として最も多く挙げたのは「企業の自主的な取組の促進や支援」54.7%で、「行為者に対する規制」は36.5%だった。企業が求めているのも、まず自社の対応を支える仕組みのほうだと読める。

だとすれば、10月以降に差が出るのは、窓口を増やしたかどうかではない。上司がその場で「これ以上は応じられない」と言える線引きを、会社が先に決めているかどうかだ。相談の大半は、そこで受け止められている。

指針が求める3つの措置のうち、対応方針の策定がこれに当たる。方針を紙一枚に落としておくかどうかが、現場の負担を左右する。