高額療養費の上限が8月から上がった。保険料の軽減は1人年1,400円
2026年8月1日、1カ月の自己負担上限が4〜7%引き上げられた。制度を年1〜3回使う70歳未満の81%が負担増になる。給付費の削減見込み2,450億円のうち1,070億円は、負担増で受診が減る分として最初から試算に入っている
2026-08-05
1,400円
保険料の軽減額(1人・年)
8月1日から上限はいくら上がったのか
高額療養費は、1カ月の医療費の自己負担に上限をかける仕組みだ。2026年8月1日から、その上限が4〜7%引き上げられた。
上げ幅は所得区分で異なり、月額上限の引き上げ額は次のとおりだ。
- 住民税非課税:1,500円
- 年収約370万円未満:3,900円
- 年収約370万〜770万円:5,700円
- 年収約770万〜1,160万円:11,700円
- 年収約1,160万円以上:17,700円
対象者がいちばん多い年収約370万〜770万円の区分では、月の上限が80,100円から85,800円になった。
厚生労働省が社会保障審議会に示した資料によると、制度を年1〜3回使う70歳未満の395万人のうち、320万人が負担増になる。割合にして81%だ。
2027年8月には所得区分が4つから13に分かれ、上限はもう一段上がる。一方で長期に治療が続く人向けには年間の上限が新設され、負担が軽くなる人もいる。
2026年8月からの自己負担上限の引き上げ額(月額)
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(2025年12月25日)
戻ってくる保険料は1人あたり年1,400円
見直しの理由として説明されているのは、保険料の負担軽減だ。上限が上がれば給付が減り、その分だけ保険料を抑えられるという理屈になる。
厚生労働省の試算では、2026年度と2027年度の2年間で給付費は2,450億円減る。内訳は保険料の軽減が1,640億円、公費の削減が800億円だ。同省は加入者1人あたりの軽減額を年1,400円、月にして116円と見込む。健康保険組合や協会けんぽなど保険者によって幅があり、600円から2,100円の間に収まる。
**年1,400円の軽減に対して、上限に達した月の負担増は5,700円。**
家計で先に体感されるのは後者だ。軽減は全員に薄く広がるのに対し、負担増は入院や手術をした人に集中する。しかも軽減分は保険料率の改定に反映されて初めて手取りに届くため、給与明細の上では他の要因に紛れてほとんど見えない。
加入者1人あたりの保険料軽減額(年額)
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(2025年12月25日)
削減見込みの44%は、患者が受診をやめる分
2,450億円の中身には、性格の違う数字が混ざっている。
このうち1,070億円は、自己負担が上がったことで受診が減る分として計算されている。全体の44%にあたる。
この推計に使われるのは、長瀬効果と呼ばれる経験則だ。自己負担の割合が上がると医療の利用が減るという関係を式にしたもので、1930年代の日本の統計から導かれている。
つまり削減額の半分近くは、給付の付け替えで生まれるお金ではない。患者が病院に行かなくなることで生まれるお金だ。
引き上げ額そのものは、所得が高い区分ほど大きい。ただ、受診をやめる判断が出やすいのは、負担が家計に占める割合の高い層のほうだと考えられる。減った受診のうち、行かなくてよかったものと、行くべきだったものがどれだけ含まれるか。試算はそこを区別していない。
給付費の削減見込み2,450億円の内訳(2026・2027年度)
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(2025年12月25日)
2027年3月には薬にも同じ方式が入る
同じ考え方は薬にも及ぶ。2027年3月から、市販薬と成分が似た77成分、約1,100品目に「特別の料金」が導入される。
薬剤費の4分の1を保険の外で払い、残りに3割負担がかかるため、窓口での実質負担は47.5%になる。花粉症の薬や解熱鎮痛薬、湿布などが対象に入る見込みだ。子ども、がんや難病の患者、低所得者、入院患者、医師が長期の使用を必要と判断した人は対象から外れる。2027年度以降は、対象品目の拡大と料金の引き上げも検討課題に挙がっている。
上限を上げる方式と、保険の外に出す方式。呼び方は違うが、どちらも窓口の負担額を動かして医療の使われ方を変える設計だ。
1,070億円が節約なのか我慢なのかは、受診がどこで減ったのかを実施後に追わなければ判別できない。だが日程は、2027年3月に薬剤の特別料金、同年8月に13区分化と、検証結果が出そろう前に次の見直しが動く順序になっている。8月の引き上げでどの層の受診が減ったのかをどれだけ早く把握できるかが、次の設計を左右する。