独自分析
国旗損壊処罰法表現の自由刑法92条憲法21条法務省
国旗損壊処罰法が施行。同じ罪が外国の国旗には119年前からあった

国旗損壊処罰法が施行。同じ罪が外国の国旗には119年前からあった

日の丸を公然と破れば2年以下の拘禁刑。刑法92条との違いは、削られた2つの要件にある

2026-08-12

2年

国旗損壊罪の拘禁刑の上限

8月13日に施行された条文

国旗の損壊等の処罰に関する法律が8月13日に施行された。7月17日に議員立法で成立した令和8年法律第69号である。

罰せられるのは、人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法で、公然と国旗を損壊、除去、汚損する行為。法定刑は2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金だ。

**同じ法定刑の条文は、1907年からすでにある。**

刑法92条の外国国章損壊罪だ。外国に対して侮辱を加える目的でその国の国旗を壊した場合も、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金となる。

罰の重さは同じで、違うのは要件だ。新法には、92条にある次の2つが入っていない。

  • 「侮辱を加える目的」という主観的な要件
  • 「外国政府の請求がなければ起訴できない」という手続の条件

この法律がどれだけ動くかは、刑の重さではなく、事件が立ち上がる入口の広さで決まる。

日本の刑法が定める拘禁刑の上限

出典:刑法、国旗の損壊等の処罰に関する法律

刑法92条が119年間動かなかった理由

刑法92条が適用された例は、119年でごくわずかしかない。この条文が守っているのが国旗そのものではなく、外交上の利益だからだ。相手国が起訴を請求しない限り、検察は公訴を提起できない。

記録に残る事件は数えるほどだ。

  • 1956年、大阪で街宣車から青天白日旗を奪った事件。中華民国政府が適用を求めたが不起訴になった
  • 1965年、最高裁が大阪の中華民国大使館の国章を看板で覆った2人に懲役8か月と4か月を確定させた
  • 1974年、福岡の米国領事館で星条旗が焼かれ、懲役刑が確定した

1956年の不起訴の際には、法務省が「92条の国旗は公的機関が公的に掲げたものに限る」という解釈も示している。

**条文の書きぶりは広くても、外国政府の請求という要件が事実上の絞りとして働いてきた。**

「著しく不快」を誰が判断するか

新法には、その絞りがない。行為を見た人が通報すれば、立件するかどうかを判断するのは捜査機関になる。

判断の基準として条文が置いたのが「著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」という文言だ。法務省のQ&Aは、これを「一般通常人から見て、ひどく快くないと感じさせる方法」と説明し、行為の外形や周囲の状況といった客観的な事情を総合して判断するとしている。

対象にならない範囲も示された。

  • アニメや漫画、生成AIの画像は「有体物」にあたらないため対象外
  • 自室で壊す行為は「公然と」を欠くため対象外
  • お子さまランチの旗のような装飾品は国旗にあたらない
  • 過失で破った場合は処罰されない

それでも、どこからが「著しく不快」にあたるかは、個々の事案で捜査機関が判断することになる。国会審議では参考人の橋本基弘中央大教授が「後出しじゃんけん的な解釈による適用」への懸念を述べ、憲法研究者199人も8月4日、憲法21条の表現の自由を侵害するとして廃止を求める声明を出した。警察庁は各都道府県警に、立件の可否を慎重に検討するよう指示している。

3年後の見直しで問われるもの

この法律には、施行から3年をめどに検討を加える見直し条項が付いている。

そこで論点になりにくいのは、刑の重さのほうだ。国際的に見れば、2年という法定刑は突出した水準ではない。

  • **ドイツ**:刑法90a条で3年以下(憲法秩序への攻撃を目的とする場合は5年以下)
  • **中国**:刑法299条で3年以下
  • **フランス**:公的行事での侮辱は罰金7,500ユーロ、集団で行った場合は6か月の拘禁刑
  • **米国**:1989年のTexas v. Johnson判決で、国旗焼却を禁じる州法が違憲とされた

残るのは運用だ。3年後の検討で見るべき数字は3つある。通報のうち何件が立件されたか、不起訴になった事件はどんな理由だったか、そして芸術や報道の現場で国旗を扱う判断が実際に変わったか。

入口の広さは、条文を読んでも測れない。3年後の見直しが実質を持つかどうかは、この運用データが公表されるかどうかで決まる。

国旗を傷つける行為への拘禁刑の上限(主要国)

出典:各国刑法、米国連邦最高裁 Texas v. Johnson 判決(1989年)