国立大の授業料が上がり始めた。交付金の要求額は過去最高なのに
2027年度の概算要求は1兆2,512億円。法人化した2004年度をやっと97億円上回る額で、その23年で収入の柱は附属病院に移った
2026-08-22
29%
国立大の収入に占める運営費交付金(令和6年度)
過去最高の要求額が、2004年度に追いつく
文部科学省は2027年度の概算要求で、国立大学の運営費交付金に1兆2,512億円を求めた。前年度の当初予算から約1,500億円の増額で、実現すれば法人化以降で最も多い額になる。
ただ、この水準には見覚えがある。
- 2004年度(法人化の初年度):1兆2,415億円
- 2024年度:1兆784億円
- 2026年度予算:1兆971億円
- 2027年度要求:1兆2,512億円
**要求どおり通っても、2004年度を97億円上回るだけだ。**
減り方には仕掛けがあった。法人化と同時に「効率化係数」が導入され、交付金は毎年1%ずつ削られる設計になった。2010年度からは「大学改革促進係数」に名前を変え、2016年度に廃止されるまで続いた。
20年かけて1,600億円あまりを削り、それを一度に戻す要求である。ただし戻るのは名目の額にすぎず、その間の物価と人件費の上昇は埋め合わされない。削られた20年間、大学は別の収入で穴を埋めてきた。
国立大学の運営費交付金の推移
出典:文部科学省、日本経済新聞(2027年度は概算要求額)
収入で一番大きいのは、もう交付金ではない
穴埋めの結果は、令和6年度の決算にそのまま出ている。85法人を合計した経常収益は3兆7,005億円。内訳は次のとおりだ。
- 附属病院収益:1兆4,148億円
- 運営費交付金収益:1兆828億円
- 受託研究等収益:4,194億円
- 学生納付金収益:3,624億円
- 寄附金収益:1,355億円
**交付金は収入全体の29%まで下がり、最大の柱は附属病院に移った。**
文科省の資料によれば、附属病院は経常収益ベースで81法人の業務活動の約45%を占め、病院を持つ41法人に限れば約50%に達する。病院を抱える大学では、会計のおよそ半分が病院経営ということになる。
交付金の増減だけを追っていると、この部分が視界から外れる。
国立大学法人等の経常収益の内訳(令和6年度、85法人合計)
出典:文部科学省「国立大学法人等の令和6事業年度決算について」
その柱が286億円の赤字になった
穴埋めとして効いてきたその柱が、令和6年度に反転した。
附属病院セグメントの経常損益は、約286億円の損失。文科省はこれを「増収減益」と呼んでいる。
- 附属病院収益:前年度比506億円増
- 診療経費:同436億円増
- 法人全体の人件費:同603億円増(うち病院分が303億円)
薬や医療材料の値上がりと賃上げが、増えた収益を上回った。診療報酬は公定価格なので、費用が増えた分を値上げで回収する手立てがない。
同じ年、運営費交付金収益の増加は132億円にとどまる。
**人件費が603億円増えた年に、交付金は132億円しか増えていない。**
差額を吸収できる場所は、そう多く残っていない。
53万5,800円が動き出した
残った場所のひとつが授業料だ。
国立大の授業料は文科省が標準額を定め、各大学が上限20%増の範囲で自ら決められる。標準額の53万5,800円は2005年度から据え置かれてきたが、この2年で上限に近い額を選ぶ大学が相次いだ。
- 東京大学:2025年度入学者から64万2,960円
- 埼玉大学、電気通信大学、名古屋工業大学、山口大学:2026年度から同額
- 東京科学大学:63万5,400円
- 熊本大学:59万4,600円
**2026年度時点で標準額を超える国立大は、85校中10校になった。**
値上げと同時に免除も広がっている。東大は授業料全額免除の世帯年収基準を400万円から600万円以下に引き上げた。負担が消えたのではなく、家計のあいだで置き換わったと読むほうが正確だ。
交付金が名目で2004年度に並ぶだけで、病院は赤字を抱え、人件費は増え続ける。この三つが重なる限り、10校という数字は増える側に動く。**要求額が過去最高かどうかよりも、増えた分が物価と人件費の伸びを上回るかどうかが、授業料が動くかを決める。**
大学の年間授業料
出典:文部科学省(私立大は令和7年度入学者の平均)