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「48兆円」の処方箋 ── 医療費膨張と3つの負担増が迫る選択

「48兆円」の処方箋 ── 医療費膨張と3つの負担増が迫る選択

診療報酬30年ぶり3%超改定、高額療養費上限引き上げ、保険料率上昇。国民皆保険の「請求書」を誰が引き受けるのか。

2026-05-17

48.1兆円

2023年度 国民医療費(過去最高)

止まらない「右肩上がり」── 国民医療費48兆円突破の衝撃

厚生労働省が2026年3月に公表した「令和5年度国民医療費の概況」によると、2023年度の国民医療費は48兆915億円となり、前年度比1兆3,948億円、3.0%増で過去最高を更新した。2000年度以降は年約7,800億円、年率約2%で増え続け、2020年度を除けば右肩上がりは止まっていない。

1人あたりでは年間38万6,700円だが、65歳未満は21万8,000円、65歳以上は79万7,200円、75歳以上は95万3,800円と差は大きい。65歳以上が人口の約29%を占める中、先端医療や超高額薬剤の拡大も重なり、医療の質と財政の両立が急務になっている。

国民医療費の推移

厚生労働省「国民医療費の概況」

診療報酬3.09%引き上げ ── 病院の半数が赤字、30年ぶり大改定の内幕

政府は2026年度診療報酬改定で、医療従事者の人件費に充てる本体部分を3.09%引き上げる。3%超は1996年度の3.4%以来30年ぶりで、内訳は賃上げ対応1.70%、物価高対応1.29%、薬価等はマイナス0.87%、ネット改定率はプラス2.22%となる。

背景には病院経営の悪化がある。2024年度決算を報告した約2,100病院の49.4%が赤字で、大学病院の赤字総額は508億円と前年度から340億円悪化した。一方、診療報酬1%増で国民医療費は約5,000億円増えるため、医療従事者の処遇改善と国民負担の抑制が鋭く対立している。

診療報酬1%引き上げの波及効果

野村総合研究所

高額療養費「静かな引き上げ」── 2026年8月、患者負担が増える日

高額療養費制度の自己負担上限額は、2026年8月から段階的に引き上げられる。政府は当初2025年8月実施を目指したが、がん患者団体などの反対で凍結し、厚生労働省の専門委員会で再検討した結果、2段階方式となった。

第1段階では月額上限を4〜7%程度上げ、第2段階の2027年8月には追加引き上げと所得区分の細分化、現行5区分から12区分への変更を行う。最終的な上げ幅は所得に応じて4〜38%で、年収370万〜770万円層は約8万円から約8万6,000円へ、年収650万〜770万円層は約11万円に達する見込みだ。

「50:38:12」── 医療費財源の三角形が軋む

2023年度の国民医療費48兆円超は、社会保険料24兆1,383億円、50.2%、国・地方の公費18兆331億円、37.5%、患者の窓口負担5兆9,201億円、12.3%で支えられている。保険料が約半分、税が約4割、患者負担が1割強という構造が国民皆保険の土台だ。

だが各財源は限界に近い。2026年度の協会けんぽは医療分9.90%へ0.10ポイント下がる一方、介護分は1.62%に上がる。国民負担率は2024年度45.1%、2025年度46.2%の見通しで、現役世代の負担は重い。高齢者負担、税財源、保険適用範囲の見直しは避けにくい。

医療費の財源構成(2023年度)

厚生労働省「令和5年度国民医療費の概況」

OTC類似薬と余剰11万床 ── 「歳出削減」という険しい道

医療費抑制には負担増だけでなく、歳出削減もある。代表例がOTC類似薬、つまり湿布薬やビタミン剤など市販薬と同等成分の処方薬の保険給付見直しだ。財務省は当初、年約1兆円の削減を見込んだが、日本医師会や患者団体の反発で対象は縮小され、効果は年1,880億円にとどまった。

もう一つの焦点は病床削減だ。人口減少で将来不要になる一般病床・療養病床・精神病床は約11万床とされ、削減できれば約2兆円の医療費圧縮が期待される。ただし地方では病院が大きな雇用主でもあり、制度上の正論と地域経済の現実がぶつかっている。

2040年を見据えて ── 国民皆保険を次世代に渡すために

団塊の世代が全員75歳以上となった2025年を過ぎ、日本は超高齢社会の本番に入った。厚生労働省の推計では、現行制度のままなら2040年度の医療費は65兆円を超える。2023年度の48兆円からさらに17兆円以上増える計算で、制度改革は避けられない。

予防医療の強化、特定健診・保健指導の実施率向上、オンライン診療やAI診断支援などのデジタル活用は、医療費の伸びを抑える手段になりうる。だが核心は、公的医療保険でどこまで支えるかの線引きだ。1961年以来続く国民皆保険を次世代に渡すには、負担と給付の再設計が必要になる。