独自分析
医療保険改革社会保障後期高齢者金融所得課税全世代型社会保障
「見えない所得」に迫るメス ── 医療費48兆円時代の負担再設計

「見えない所得」に迫るメス ── 医療費48兆円時代の負担再設計

金融資産648兆円を持つ高齢者層。保険料への反映で「全世代型社会保障」は実現するか。

2026-05-06

48.0兆円

2024年度 国民医療費(過去最高)

48兆円の現実──医療費膨張と負担再設計の焦点

2024年度の国民医療費は48.0兆円に達し、4年連続で過去最高を更新した。2021年度の44.2兆円から3年間で3.8兆円、8.6%増えた。

75歳以上の後期高齢者医療費は19.6兆円で、全体の40.8%と初めて4割を超えた。2024年10月時点で75歳以上は2,078万人、総人口の16.8%に達し、2025年には団塊の世代が全員75歳以上となる。

日本の医療費対GDP比は2019年時点で11.0%、OECD加盟国中5位で、OECD平均8.8%を2ポイント以上上回る。高市政権の健康保険法等改正案は、膨らむ医療費を誰がどう負担するかを問うもので、2026年4月に衆院本会議で審議入りした。

国民医療費の推移

出典:厚生労働省「医療費の動向」

「見えない所得」──金融資産648兆円をどう扱うか

改正案の焦点は、後期高齢者の金融所得を保険料や窓口負担に反映する仕組みだ。現行制度では、年金や給与、不動産所得は算定対象になる一方、上場株式の配当や売却益は源泉徴収で課税が完了し、確定申告しなければ反映されない。

そのため、多額の金融所得があっても低所得者扱いとなり、1割負担で医療を受けられる場合がある。70歳以上の家計金融資産は2025年3月末時点で推計648兆円、2030年には75歳以上が個人金融資産全体の31%を保有する見通しだ。

改正案は、申告の有無にかかわらず上場株式等の配当、利子、譲渡所得を算定に含める。マイナンバーと証券口座の紐付け情報を使い、金融機関から自治体への情報連携を制度化し、施行は2029〜2030年頃と見込まれる。

主要国の医療費対GDP比(2022年)

出典:OECD Health Statistics

高額療養費制度の再設計──二段階改革の中身

高額療養費制度の見直しも柱となる。月々の医療費自己負担に上限を設ける制度は、がん治療や手術などを支えてきたが、医療の高度化と高齢化で給付費が増え、持続可能性が課題になっている。

改革は二段階で進む。2026年8月に各所得区分の月単位の自己負担限度額を引き上げ、患者負担の年間上限を導入し、外来特例の上限額も上げる。2027年8月には所得区分を現行5区分から13区分へ細分化する。

一方、過去12カ月で3回以上高額療養費が発生する多数回該当の限度額は据え置き、年収200万円未満は限度額を引き下げる。後期高齢者医療の保険料年間上限は80万円から85万円へ上がるが、対象は高所得者に限られる。

現役世代が支える4割──膨らむ後期高齢者支援金

改革の背景には、現役世代の負担増がある。後期高齢者医療制度の財源は、公費が約5割、現役世代からの支援金が約4割、高齢者自身の保険料が約1割で成り立つ。

つまり75歳以上の医療費の4割は、健康保険に加入する現役世代が後期高齢者支援金として負担している。総額は約7.4兆円に達し、2008年の制度発足時から1.7倍に増えた一方、高齢者自身の保険料増は1.2倍にとどまる。

大企業社員が加入する健康保険組合の平均保険料率は2025年度に過去最高を更新した。社会保険料が賃金を上回るペースで増えれば、手取りを減らし、消費を冷やし、成長を阻害する。高市政権の手取り増方針とも緊張する。

後期高齢者医療の財源構成

出典:厚生労働省

各党の視座と残る論点──応能負担は合意できるか

改正案への立場は分かれる。自民党は応能負担の徹底と全世代型社会保障を掲げ、高市首相は日常的な医療給付や応能負担の観点から見直すと説明し、世代間公平を強調する。

連立パートナーの日本維新の会は、社会保険料の引き下げを重視し、給付効率化と歳出改革をより強く求める。野党では、中道改革連合が現役世代の負担軽減に理解を示しつつ詳細設計を問う一方、共産党や社民党は高齢者への負担転嫁だとして反対する。

論点はなお多い。金融所得の把握にはマイナンバーと証券口座の100%連携が前提だが、プライバシー懸念は根強い。NISA拡充で投資を促しながら投資収益に保険料を課す整合性や、医療DX、予防医療、地域医療構想を含む支出最適化も問われる。