独自分析
最低賃金賃上げ春闘中小企業実質賃金
「時給1,500円」への号砲 — 賃上げ5%時代の光と中小企業の苦悩

「時給1,500円」への号砲 — 賃上げ5%時代の光と中小企業の苦悩

春闘3年連続5%超、実質賃金プラス転化。しかし48%の企業が「1,500円は不可能」と回答する現実

2026-05-12

5.26%

2026春闘賃上げ率

最低賃金「1,500円」への険しい階段 — 10年で40%上昇、なお遠い目標

政府は2020年代中に最低賃金の全国加重平均を1,500円へ引き上げる目標を掲げる。2026年2月27日、厚生労働省の第72回中央最低賃金審議会で2026年度改定の議論が始まった。2025年度は1,121円で、2015年の798円から10年で323円、約40%上昇した。

2023年に初めて1,000円を超え、2024年は1,055円、2025年は1,121円と、年50〜66円の上昇が続く。ただし1,500円まで379円あり、2029年度末までの達成には今後4年で年約95円の引き上げが必要だ。日弁連は大幅引き上げを求める一方、日本商工会議所は地方・小規模事業者への負担を懸念している。

最低賃金(全国加重平均)の推移

厚生労働省

春闘3年連続5%超 — 非正規にも広がる賃上げ圧力

2026年春闘は賃上げ基調の定着を示した。連合の第1回回答集計、3月23日発表では、平均賃上げ率は5.26%、月額1万7,687円で、3年連続の5%超となった。ベースアップ相当分も3.85%と過去最高水準を更新した。

企業規模別では、300人以上の大企業が5.27%、300人未満の中小企業も5.05%で、差は0.22ポイントにとどまる。有期・短時間・契約等労働者の時給引き上げは84.51円、率で6.89%と正社員を上回った。ただし4月3日の第3回集計では全体5.09%、中小5.00%へ鈍化し、持続性には課題が残る。

2026春闘 雇用形態・規模別賃上げ率

連合 第1回回答集計(2026年3月)

実質賃金、4年ぶりにプラス転化 — 購買力回復はなお途上

厚生労働省の毎月勤労統計調査では、2026年1月の実質賃金が前年同月比プラス1.4%となり、約2年ぶりにプラスへ転じた。2月はプラス1.9%、3月はプラス1.0%で、3ヶ月連続のプラスを維持した。5%超の春闘賃上げと、政府のエネルギー価格抑制策による物価上昇率の鈍化が背景にある。

実質賃金は2022年にマイナス1.0%、2023年マイナス2.5%、2024年マイナス0.2%、2025年マイナス1.3%と4年連続で低下していた。日銀の「経済・物価情勢の展望」2026年4月版は、2026年度の消費者物価、除く生鮮食品を2%台後半と見込む。原油高が続けば、再びマイナス化するリスクもある。

実質賃金(現金給与総額)前年比の推移

厚生労働省 毎月勤労統計調査

中小企業の苦悩 — 48%が「1,500円は不可能」、人件費倒産も増加

賃上げが進む一方、中小企業の負担は重い。東京商工リサーチの調査では、最低賃金1,500円への引き上げを「不可能」と答えた企業が48.4%に達した。日本商工会議所の調査でも、地方・小規模企業の4社に1社が「対応不可能」と回答している。

2026年度に賃上げ予定の企業は83.6%だが、「5%以上」は35.5%に低下した。収益改善を伴わない「防衛的賃上げ」も35.5%を占める。2024年の「人件費高騰」を主因とする倒産は1〜11月累計で93件と、2023年の59件を上回るペース。支援策では「賃上げ促進税制の拡充」49.8%が最多だった。

「好循環」は回るか — 政策支援と産業構造転換が焦点

賃上げが消費を広げ、企業収益の改善が次の賃上げを生むという政府の「経済の好循環」は、2026年に入口へ立った。春闘は3年連続で5%超となり、実質賃金もプラスに転じた。ただし自律的な循環には、価格転嫁、生産性、手取りの3つの課題がある。

公正取引委員会は労務費転嫁の価格交渉指針を策定したが、下請け構造の中で実効性を確保するには時間がかかる。日本の労働生産性は日本生産性本部の2024年比較でOECD38ヶ国中31位にとどまる。2026年度の最低賃金は7月に議論が本格化し、10月に適用される。1,500円達成だけでなく、賃金、消費、投資、生産性が連動するかが問われる。