住宅ローン減税0.7%を、払う金利1.55%が追い越した
政策金利は6月に1.0%へ。控除率0.7%は、金利がそれを下回っていた時代に決められた数字だった
2026-08-18
1.55%
住宅ローン返済中の平均金利(2026年7月)
政策金利1.0%が、返済中の家計に届くまで
日本銀行は2026年6月16日、政策金利を0.75%程度から1.0%程度に引き上げた。1995年9月以来、約31年ぶりの水準になる。
変動金利は政策金利に直接ひもづくのではなく、銀行の短期プライムレートを経由して動く。利上げが実際の返済に届くまでには、半年前後の時間差がある。
その時差を越えた数字が、いま出そろった。
- 主要な銀行の変動金利:おおむね0.9〜1.2%
- フラット35の最も多い金利:3.290%(2026年8月)
- 返済中の人の平均金利:1.55%(2026年7月時点)
返済中の平均金利は7カ月連続で上がり、集計開始以来の最高になった。フラット35の3.290%も、いまの制度になった2017年10月以降で最も高い。
借りる側の選び方も動いた。住宅金融支援機構の調査では、変動型を選んだ人の割合が79.0%から75.0%へ下がり、今後の金利が「上がる」と答えた人は65.7%から73.7%に増えている。
住宅ローンを借りた人が選んだ金利タイプ
出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」(2026年1月調査)
0.7%は、損得が入れ替わる線として引かれた
住宅ローン減税は、年末のローン残高の0.7%を所得税から差し引く制度だ。この0.7%という数字には、はっきりした由来がある。
会計検査院は平成30年度の決算検査報告で、2017年に控除の適用を始めた人のうち借入金利が確認できた1,748人を調べた。そのうち78.1%が、当時の控除率1%を下回る金利で借りていた。払う利息より、戻ってくる控除のほうが大きい。2022年に控除率が1%から0.7%へ下がったのは、この指摘への対応だった。
では、0.7%はどこに線を引く数字なのか。3,000万円を35年、元利均等で借りた初年度で比べると、こうなる(本紙試算)。
- 金利0.5%:利息14.8万円に対し控除20.4万円。控除が5.6万円多い
- 金利0.7%:利息20.8万円に対し控除20.5万円。ほぼ同額
- 金利1.0%:利息29.7万円に対し控除20.5万円。利息が9.2万円多い
**控除率0.7%は、金利0.7%をまたいで損得が入れ替わる設計になっている。**
返済中の平均金利1.55%は、その線をすでに大きく越えた位置にある。
3,000万円を35年で借りた初年度の支払利息(控除額は約20.5万円)
出典:本紙試算(元利均等返済、年末残高に控除率0.7%を適用)
返済額は同じでも、元金の減りは遅くなる
金利が上がっても、変動型の毎月の返済額はすぐには変わらない。多くの銀行が5年ルールを採っていて、返済額の見直しは5年に1度だからだ。見直し後も前回の1.25倍までしか上がらない(125%ルール)。
変わらないのは返済額であって、その中身ではない。
3,000万円を35年、金利0.5%で借りると毎月の返済額は77,876円になる。うち利息が12,500円、元金が65,376円だ。金利が1.0%に上がっても返済額は77,876円のまま据え置かれるが、内訳は利息25,000円、元金52,876円に変わる。
**元金の減りが月に12,500円ぶん遅くなる。年にすると15万円だ。**
減らなかった分が消えるわけではなく、残高として後ろに回る。上昇幅が大きければ、利息が返済額を超えて未払利息として積み上がることもある。
この見えにくさは調査にも表れている。住宅金融支援機構の調査では、金利見直しのルールを「よく分からない」と答えた人が約4割いた。仕組みが伝わりきらないまま、変動金利の利用者の47.3%が固定への切り替えを検討している。
返済額77,876円の内訳が、金利0.5%と1.0%でどう変わるか
出典:本紙試算(借入3,000万円、35年、元利均等、5年ルールで返済額を据え置いた場合の初回)
期限は2030年まで延び、控除率は0.7%のまま
令和8年度税制改正の大綱は2025年12月26日に閣議決定され、住宅ローン減税の適用期限が5年延びた。2026年1月から2030年12月末までに入居した人が対象になる。省エネ性能の高い既存住宅の借入限度額引き上げ、控除期間13年への拡充、床面積40平方メートル以上への緩和も加わった。
延びたのは期限で、控除率0.7%は据え置かれている。その間に入れ替わったのは、制度の役割のほうだ。利息を上回る額を戻す制度から、利息の一部を戻す制度になった。
借り手にとっては、合理的な行動の向きも逆になる。
- 金利が控除率より低いとき:繰上返済を我慢して控除を取り切るほうが有利
- 金利が控除率を上回ったとき:繰上返済で利息を減らすほうが効く
条文は変わらないまま、同じ計算の答えだけが反対を向いた。そして5年ルールがある限り、この転換は毎月の引き落とし額には現れない。控除率0.7%が前提としていた金利水準に戻る見通しが立たない以上、確認する場所は毎月の返済額ではなく、年に一度届く残高証明書の元金の減り方になる。