住宅ローン「金利差2ポイント」時代 ── フラット35が3%を超えた意味
2か月で0.82ポイント急騰した固定金利と、1%未満にとどまる変動金利。75%が変動に集中する市場で、5年ルールが覆い隠す「元利比率の変化」を読む
2026-06-04
3.21%
フラット35金利(2026年6月)
フラット35「初の3%超え」── 2か月で0.82ポイントの急騰
2026年6月、フラット35の最低金利が3.21%に達した。2017年の現行制度導入以来、初の3%超えだ。
フラット35は最長35年間金利が固定されるローンだ。その「安心料」が一気に跳ね上がった形になる。
上昇ペースが目を引く。4月は2.39%、5月は2.71%、そして6月に3.21%。わずか2か月で0.82ポイント上がった。
背景にあるのは長期金利の上昇だ。10年物国債利回りが5月に一時2.8%と29年半ぶりの水準をつけ、連動するフラット35も引き上げられた。
運営する住宅金融支援機構が金利上昇を吸収する余力も薄れている。前月比+0.50ポイントは過去最大級の引き上げ幅だ。長期金利が高止まりすれば、さらなる上昇も見込まれる。
3500万円を35年で借りた場合、3.21%だと月額は約13.8万円。2025年半ばに1.8%台で借りた人は約11.3万円だった。同じ額を借りても月2.5万円、年間約30万円の差が生まれる。
フラット35金利の推移(2026年4〜6月)
住宅金融支援機構
金利差2.13ポイント ── 変動金利75%集中の構造
固定金利が急騰する一方、変動金利は低水準にとどまっている。PayPay銀行は0.85%、三菱UFJ銀行は0.945%、SBI新生銀行は0.99%。主要行は軒並み1%未満だ。
6月の変動金利は全行が据え置き。日銀の利上げがまだ反映されていないためだ。
固定と変動の金利差は2.13ポイント。過去最大の水準に開いた。
この差が変動への集中を加速させている。住宅金融支援機構の2026年1月調査では、変動金利の利用割合は75.0%。前年調査の79%からやや低下したが、4人中3人が変動を選ぶ構図は変わらない。
3500万円・35年返済で比較すると差は歴然だ。
- 変動0.85%:月額 約9.6万円
- 固定3.21%:月額 約13.8万円
- 差額:月4.2万円、年間約50万円
月4万円、年間50万円の差。この「安さ」が75%集中を支えている。だが変動金利は文字どおり変動する。差が大きいほど、変動側が動いたときの落差も大きい。
住宅ローン金利タイプ別利用割合(2026年1月調査)
住宅金融支援機構
日銀「1.0%」への秒読み ── 変動金利は10月から上がる
日銀は6月15〜16日に金融政策決定会合を開く。現在の政策金利は0.75%。市場では1.0%への引き上げが秒読み段階と見られている。
4月会合では据え置きだったが、9人中3人の政策委員が利上げの修正案を提出した。次の会合で決定に至る可能性は高い。
利上げが実施された場合の波及経路はこうだ。
- 政策金利引き上げ → 短期プライムレート上昇 → 各行の基準金利改定
- 変動金利は10月頃に0.25ポイント程度上昇する見込み
- 既存借入者の返済額反映は2027年1月以降が一般的
3500万円のローンで金利が0.85%から1.1%に上がると、月額は約9.6万円から約10.0万円へ。月4000円、年5万円ほどの増加だ。
一回の利上げの影響は限定的に見える。だが年内にもう一段の利上げ(1.25%)が実施されれば、変動金利は1.3%台に届く。中長期的には政策金利が2%前後まで上がりうるとの見方もある。一回一回は小さくても、積み重なれば固定との差は縮まっていく。
5年ルールの盲点 ── 返済額が同じでも中身は変わる
変動金利には「5年ルール」と「125%ルール」という二つの緩衝装置がある。
- 5年ルール:金利が上がっても5年間は返済額を据え置く
- 125%ルール:返済額改定時に前回の1.25倍を上限とする
この仕組みにより、金利が上がっても月々の支払いはすぐ変わらない。「影響はない」と感じる利用者は多いだろう。
だが返済額が同じでも、内訳は変わっている。
元利均等返済では借入当初ほど利息の割合が大きく、返済が進むにつれて元本の比率が増えていく。金利が上昇すると、この元利比率が「初期の状態」に押し戻される。同じ金額を払い続けても、元本の減りが遅くなるのだ。
金利の大幅上昇が続いた場合には「未払利息」が発生しうる。返済額をすべて利息に充てても足りず、元本が減らない状態だ。未払利息は最終返済時に一括清算される。
5年ルールは返済額の急変を防ぐ装置であって、利息負担を免除する仕組みではない。月額だけを見ていると、元本返済の遅延に気づかないまま時間が過ぎる構造になっている。
月額返済額の比較(3500万円・35年返済)
試算(元利均等返済)
住宅ローン155兆円時代 ── 見るべきは「元利比率」
日本の住宅ローン残高は155兆円。過去最高を更新し続けている。物件価格の高騰で借入額が増え、返済期間の長期化で残高の減り方が鈍った結果だ。
75%が変動金利に集中するこの155兆円。金利上昇は利息負担を増やすが、5年ルールにより多くの利用者は変化を実感しにくい。
金利上昇局面で注視すべき指標は3つある。
- 元利比率:毎月の返済のうち元本返済が占める割合。金利上昇後にこの比率が下がっていれば、返済ペースが鈍っているサインだ
- 残高推移:当初の返済計画と比べて元本がどのペースで減っているか
- 総返済額の変化:3500万円のローンで金利が0.85%から1.5%に上がった場合、総返済額の差は約450万円になる
月々の返済額が据え置かれていても、この450万円の差は最終的にどこかで清算される。
フラット35の3%超えは固定金利の話にとどまらない。変動金利の利用者にとっても、「金利が動いたとき自分のローンに何が起きるか」を数字で確認する契機になる。住宅ローン残高155兆円の75%が変動金利という構造は、日本の家計が金利変動にどれだけ敏感かを左右する。月々の返済額ではなく元利比率を追うことが、金利のある時代の基本動作だ。