「年金6大改革」の全貌 ── 在職老齢年金緩和から106万の壁撤廃まで
2026年、年金制度が一斉に動き出した。働くシニア、パート労働者、フリーランス――あなたの老後設計はどう変わるのか。
2026-05-15
62万円
在職老齢年金の新基準額(月額)
2026年、年金制度が一斉に動く
2025年6月13日に成立した「年金制度改正法」の施行が、2026年に本格化している。4月には在職老齢年金の支給停止基準額が月50万円から62万円へ24%引き上げられ、10月にはパート労働者約200万人に関わる「106万円の壁」撤廃、12月にはiDeCoの拠出限度額引き上げと加入可能年齢の70歳未満への拡大が予定される。
背景には人口構造の急変がある。65歳以上は約3,600万人、総人口の29%超に達し、現役世代は毎年数十万人減少している。2024年の財政検証では、低成長シナリオで将来の所得代替率が50%を割り込む見通しも示され、2026年度も物価上昇率3.2%に対し年金増額は1.9%にとどまる。
年金額改定率と物価上昇率の乖離(2026年度)
出典:厚生労働省
在職老齢年金「62万円」── 20万人のシニアに届く恩恵
4月施行の見直しで、在職老齢年金の支給停止基準額は月50万円から62万円へ上がった。これまで60歳以上の在職者は、年金の基本月額と給与の合計が50万円を超えると、超過分の半額が年金から差し引かれていた。
この改正により、支給停止対象者は約50万人から約30万人へ20万人減る見込みで、停止総額も約4,500億円から約2,900億円へ1,600億円縮小する。月収45万円、厚生年金月10万円の人は、従来なら月2万5,000円カットされたが、改正後はゼロとなり年30万円増える。ただし制度撤廃ではなく、高所得シニアにはなお壁が残る。
在職老齢年金 支給停止対象者数の変化
出典:厚生労働省
「106万円の壁」消滅 ── 200万人のパート労働者に迫る選択
10月予定の「106万円の壁」撤廃は、パート・アルバイトに大きな影響を与える。従来は月額賃金8万8,000円、年収約106万円以上が社会保険加入の要件だったが、この賃金要件がなくなり、週20時間以上働く短時間労働者は厚生年金・健康保険の対象となる。厚生労働省は約200万人が新たに加入すると試算する。
加入すれば将来の年金は増え、傷病手当金や出産手当金も受けられる。一方、年収120万円なら社会保険料の自己負担は年約18万円、手取りは約102万円に減る。3年間の経過措置はあるが、終了後の負担や扶養から外れる抵抗感は残り、労働時間を増やす判断は簡単ではない。
iDeCo拡充 ── 「自助」で老後に備える時代の加速
12月施行のiDeCo改正では、第1号被保険者の拠出限度額が月6万8,000円から7万5,000円へ上がり、会社員・公務員は月6万2,000円に統一・拡大される。加入可能年齢も65歳未満から70歳未満へ広がり、長く働きながら積み立てる選択肢が現実味を増す。
掛金は全額所得控除の対象で、年収500万円の会社員が上限近くまで拠出すれば、所得税・住民税の軽減額は年約15万円に達する計算だ。ただし原則60歳まで引き出せず、運用は自己責任で元本割れリスクもある。公的年金の実質目減りが続く中、自助の拡充は低所得層ほど恩恵を受けにくい課題も抱える。
世代間格差という「不都合な真実」── 改革の先にある本質的課題
今回の改革は幅広いが、年金制度の根本問題である世代間格差には十分踏み込めていない。厚生労働省の財政検証では、1940年生まれは支払った保険料の約5.8倍の給付を受ける一方、1960年生まれは約2.3倍、1980年生まれ前後では1倍を割り込む見通しだ。2000年生まれ以降は、納付額を下回る給付が常態化する可能性もある。
基礎年金の底上げも先送りされた。厚生年金の積立金を活用する構想は反発が強く、具体策は次回の財政検証、2029年以降に持ち越された。2026年度の国民年金満額は月7万608円で、これだけで老後生活を支えるのは難しい。改革は、持続可能性と世代間公平をどう両立するかへ進む必要がある。
世代別・年金給付負担倍率
出典:厚生労働省 財政検証