独自分析
SAF持続可能な航空燃料混合義務航空脱炭素資源エネルギー庁
飛行機の新燃料SAF、2030年の混合義務は1%。EUは6%、英国は10.6%

飛行機の新燃料SAF、2030年の混合義務は1%。EUは6%、英国は10.6%

対象は成田や羽田など7空港の国際線に給油する燃料だ。値段はいまのジェット燃料の3倍とされ、その差額を誰が払うかはまだ決まっていない

2026-09-10

1%

2030年度に国際線の燃料へ混ぜるSAFの割合

2030年度に始まる1%の義務

経済産業省が9月、ジェット燃料の供給事業者にSAF(持続可能な航空燃料)の混合を義務づける案を示した。対象は成田、羽田、新千歳、中部、関西、福岡、那覇の7空港で、国際線向けに供給する燃料にかかる。

義務を負うのは航空会社ではない。石油元売りや商社など、燃料を供給する側だ。

割合は段階的に上がる。

  • 2030年度:1%以上
  • 2031年度:3%以上
  • 2032年度から2034年度:5%以上

政府はこれまで、2030年に本邦航空会社の燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を掲げてきた。義務の出発点は、その10分の1にあたる1%になる。

同じ2030年の義務量を国際的に並べると、EUは6%、英国は10.6%。韓国とシンガポールは3%から5%を目標に置く。

ただ、この制度でまだ決まっていないのは割合の水準ではない。高いSAFと通常のジェット燃料の差額を、誰が負担するのかだ。

国際線向けに義務づけられるSAFの混合割合

出典:経済産業省 資源エネルギー庁(2026年9月の制度案)

義務が燃料を売る側にかかる理由

なぜ義務が航空会社ではなく燃料を売る側にかかるのか。国土交通省航空局は、出発便に給油そのものを義務づけるのは難しいと説明している。

航空法63条が定めているのは、運航の安全に必要な量の燃料を積むことだ。その条件を満たす限り、どこで給油するかまでは縛れない。国際民間航空条約にも、給油地を規制する規定はない。

日本でSAFを積みたくない航空会社は、出発国で復路の分まで給油して飛んでくれば、日本での給油を避けられる。

ただし、往復分を積める路線は距離的に限られる。韓国、中国、香港、台湾のような近距離路線が中心だ。

航空局が2019年度の実績を調べたところ、外国の航空会社による日本国内での給油量のうち、これら4地域の事業者の分は約20%だった。ジェット燃料の10%がSAFに置き換わったと仮定しても、その事業者が積むSAFは国内給油全体の約2%にとどまる。

回避の余地は、給油地を法律で縛り直すほどの大きさではない。制度はこの見立てのうえに立っている。

2030年のSAF義務量の国際比較

出典:第8回SAF官民協議会 事務局説明資料(2026年1月28日)

値段の差を誰が払うか

SAFは高い。航空局が海外のサーチャージを検証したときの前提は、SAFが1リットル360円、いまのジェット燃料が120円。3倍の開きがある。

この差額をどう回収するか。海外はすでに動いている。

シンガポールは2026年から、国が国際線の出発旅客からSAF Levyを一括で徴収する。集めた資金でSAFを買い、航空会社に配る仕組みだ。エコノミークラスの徴収額は飛行距離で決まる。

  • バンコク行き(約2.5時間):約123円
  • 東京行き(約7時間):約344円
  • ロンドン行き(約14時間):約787円
  • ニューヨーク行き(約18時間):約1,279円

この金額の前提は、2026年の混合目標1%だ。日本の義務は2032年度に5%まで上がるため、同じ考え方で集めるなら旅客1人あたりの負担はこれより重くなる。

日本での集め方はまだ決まっていない。空港使用料への上乗せか、新税か。国際線から始め、国内線に広げるかどうかも今後の論点だ。

シンガポールのSAF Levy(エコノミークラス、旅客1人あたり)

出典:国土交通省航空局 資料(第8回SAF官民協議会)

172万kLの需要と192万kLの計画

足りないのは燃料そのものではない。

2030年に必要なSAFは172万kL。国内のジェット燃料使用量の10%にあたる量だ。これに対し、石油元売りなどの公表計画を積み上げた供給見込みは約192万kLで、数字のうえでは需要を20万kL上回っている。

それでも、製造プラントの最終投資決定は進んでいない。航空会社との売買交渉が始まったばかりで、どれだけ売れるかが見えないからだ。

時間の余裕は小さい。建設に2年半から3年かかり、税額控除を使うには2026年度末までの計画認定が要る。2030年の大規模供給に間に合わせるには、2026年末までに投資を決める必要がある。

義務1%が確定させる買い手は、192万kLのごく一部にすぎない。投資判断を動かすのは、差額を誰がどう負担するかの設計のほうだ。ここが2026年中に固まらなければ、2030年に義務だけが始まり、混ぜる中身は輸入SAFで埋めることになる。