再審を申し立てた1,218人のうち、やり直しが決まったのは7人
7月17日に78年ぶりの再審法改正が成立し、検察官の抗告は原則禁止になった。日野町事件では、その抗告に7年7か月かかっていた
2026-08-30
7人
5年間に再審開始が決まった人数
78年ぶりに書き加えられた再審の手続き
7月17日、再審の手続きを見直す改正刑事訴訟法が参議院本会議で可決・成立した。
1948年に現行の刑事訴訟法ができてから、再審の規定に手が入るのは初めてだ。裁判のやり直しをどう進めるかは、78年間ほとんど条文に書かれてこなかった。
改正で加わったのは主に次の4点である。
- 裁判所が検察官に証拠の提出を命じられる「証拠提出命令」の新設
- 再審開始決定に対する検察官の不服申立てを原則禁止
- 明らかに要件を満たさない請求をふるい分ける規定
- 開示された証拠を目的外に他人へ渡した場合の罰則(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)
公布から1年以内に順次施行される。
このうち、救済までの時間に直接効くのは2つ目だ。抗告の禁止は、すでに再審開始が決まった人の待ち時間を縮める。
開始決定のあとに流れた7年7か月
改正が念頭に置くのは、日野町事件で費やされた時間だ。
1984年に滋賀県日野町で起きた事件では、2000年に無期懲役が確定した阪原弘さんが2011年に亡くなった。遺族が2012年に申し立てた第2次再審請求で、大津地裁が再審開始を決めたのは2018年7月11日である。
検察官が即時抗告し、大阪高裁がこれを退けたのが2023年2月27日。さらに特別抗告があり、最高裁の棄却で再審開始が確定したのは2026年2月24日だった。
**開始決定が出てから確定するまで、7年7か月。**
死刑または無期懲役が確定した事件で、請求人の死後に開かれる再審は戦後初となる。
抗告審に年月を費やした例は、ほかにもある。
- 袴田事件は2014年3月の静岡地裁決定から、2023年3月に東京高裁が即時抗告を退けて確定するまで8年11か月
- 松橋事件は2016年6月の熊本地裁決定から、2018年10月の最高裁決定まで2年3か月
大崎事件のように、地裁と高裁が再審開始を認めながら、2019年6月に最高裁が決定を取り消して請求を棄却した例もある。
抗告が原則禁止になれば、こうした待ち時間は基本的に消える。ただし改正法は、決定を取り消すべき「十分な根拠」がある場合の抗告を残している。
再審開始が決まってから確定するまでにかかった期間
出典:日本弁護士連合会の事件経過(日野町事件、松橋事件)、東京高裁決定(袴田事件)
開始決定にたどり着く人の数
では、この短縮を受け取れる人は何人いるのか。
最高裁事務総局の統計では、令和元年から5年までの5年間に処理された再審請求は延べ1,218人分。このうち再審開始が決まったのは7人分だった。
**割合にすると0.6%。年に1人か2人にとどまる。**
内訳の偏りも大きい。7人のうち6人は簡易裁判所の事件で、地方裁判所の事件は5年間で1人。高裁と最高裁での開始決定はゼロだった。簡裁が扱うのは略式命令などの軽微な事件が中心である。
請求の理由もはっきりしている。令和5年に処理された本人側の請求235人分のうち、106人分が刑訴法435条6号、つまり「無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見した」という理由だった。
そして、その新証拠の多くは捜査機関の手元にある。
再審開始が決まった人数は年0〜4人
出典:最高裁判所事務総局(法制審議会刑事法(再審関係)部会 統計資料)
再審請求の理由(令和5年、理由が複数ある場合は重複計上)
出典:最高裁判所事務総局(法制審議会刑事法(再審関係)部会 統計資料)
証拠の一覧表が5年後の検討に回った
ここで証拠提出命令の条件が効いてくる。命令の対象は再審請求の理由に関連する証拠に限られ、裁判所が必要性などを踏まえて相当と認めた場合に発せられる。
裏を返せば、何が保管されているか分からなければ、証拠を名指しで求めること自体が難しい。
通常の裁判には、この点への手当てがある。公判前整理手続に付された事件では、弁護人の請求により検察官が保管する証拠の一覧表が交付される(刑訴法316条の14第2項)。2016年の改正で入った制度だ。
再審には、それがない。衆議院の審議で付則に加わったのは、検察が保管する証拠リストの開示と目的外使用の禁止を、5年ごとの見直しの検討対象として明示する修正だった。
つまり今回の改正で確実に動くのは、開始決定が出たあとの年単位の待ち時間である。年1〜2人という開始決定の数そのものを動かすには、次の見直しで一覧表が入るかどうかが条件になる。
司法統計の「7」という数字が変わるとすれば、そこから先だ。