独自分析
安全保障防衛費安保3文書改定
「安保3文書」改定の号砲 ── 9兆円時代の「新しい戦い方」は日本をどこへ導くか

「安保3文書」改定の号砲 ── 9兆円時代の「新しい戦い方」は日本をどこへ導くか

有識者会議が始動、ドローン・AI・認知戦への対応と「防衛費GDP比2%」の先を議論

2026-04-29

9.04兆円

2026年度防衛関係費(過去最大)

有識者会議が始動──安保3文書の再改定へ

4月27日、首相官邸で「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」が初会合を開いた。座長は元駐米大使の佐々江賢一郎氏で、秋までに提言をまとめ、年末に国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画の「安保3文書」改定を目指す。

高市早苗首相は、防衛力の抜本的強化を主体的に進める必要があり、3文書改定は「国家の命運を左右する」と述べた。前回改定は2022年12月で、防衛費のGDP比2%目標と反撃能力が初めて明記されたが、安全保障環境の変化を受け、わずか3年半で再改定に向かう。

三重の圧力──脅威、同盟、戦争形態の変化

再改定の要因は三つある。第一に、中国の「軍事力強化と活動の拡大・活発化」、中露の「軍事連携の強化」、北朝鮮の「核・ミサイル開発の継続」など、東アジアの脅威環境が深刻化している。

第二に、トランプ米政権が同盟国に防衛費増額を求め、NATOは2025年に全加盟国がGDP比2%目標を達成し、平均2.76%となった。第三に、ウクライナ紛争が示したように、ドローン、AI、サイバー攻撃、偽情報を含む認知戦が現代戦の主要要素になっている。

主要国の防衛費GDP比(2025年)

NATO、各国政府発表(2025年)

防衛費9.04兆円──拡大する予算と残る制約

日本の防衛関係費は、2022年度の5.4兆円から2023年度6.8兆円、2024年度7.9兆円、2025年度8.7兆円へ増え、2026年度は過去最大の9.04兆円に達した。関連経費を含む防衛関連費は10.6兆円、GDP比1.9%で、2027年度の2%達成が視野に入る。

ただし、予算増だけで防衛力が完成するわけではない。装備品の調達費は4年間で2.1倍に拡大した一方、人件費・糧食費は2.39兆円で増加幅は約1割にとどまり、自衛隊員の確保が課題となる。国際比較ではポーランド4.48%、米国3.22%、英国2.40%で、韓国もGDP比3.5%への引き上げを表明している。

日本の防衛関係費の推移

防衛省

総合的国力で考える安全保障──6つの柱

初会合の政府資料は、安全保障の基盤を「経済力・技術力・外交力・防衛力・情報力・人材力」の6要素で捉え、これらを「有機的に連携させる必要がある」とした。焦点は防衛費の規模だけでなく、国力全体で安全保障を支える発想への転換にある。

特に重視されるのがサイバーセキュリティーと認知戦への対応だ。資料は「国家背景とみられるサイバー攻撃」への対処能力向上と、「外国からの影響工作に強靱な情報空間」の創出を明記した。半導体、レアアース、エネルギーなど戦略物資のサプライチェーン確保も主要議題となる。

聖域なき議論の行方──非核三原則、原潜、年末改定

有識者会議では、従来扱いが難しかった論点にも踏み込む構えだ。高市首相が持論とする非核三原則の一部見直し、特に「持ち込ませず」の緩和は、米国の「核の傘」の信頼性を高める観点から一部専門家に支持がある。

一方、日本は唯一の被爆国で、核兵器をめぐる国民感情は根強い。原子力潜水艦の導入も議題に含まれる見込みだが、長期潜航による抑止力向上が期待される反面、建造・維持コストや原子力への世論が課題となる。秋の提言は、9.04兆円の防衛予算を含め、日本の安全保障選択を問う起点になりそうだ。