生活道路の法定速度がきょう30キロに。標識は立たない
対象は中央線のない道路。9月1日から時速60キロの半分になったが、道の見た目は何も変わらない
2026-09-01
30
km/h(中央線のない道路の新しい法定速度)
9月1日に変わった道と、変わらない道
9月1日、改正道路交通法施行令が施行された。
中央線も車両通行帯もない道路の法定速度が、時速60キロから30キロに下がった。標識で速度が指定されている道は、これまでどおりその指定が優先される。
一方、変わらない道もある。
- 中央線(センターライン)がある一般道路
- 車両通行帯(車線)が引かれている道路
- 往復の方向別に分離されている道路
- 自動車専用道路と高速道路
つまり、線が引かれていない道だけが対象だ。
なぜ30キロなのか。内閣府が公開する検討会の資料は、OECDの2006年報告を引いている。
**時速30キロの車にはねられた歩行者は90%が生存する。50キロだと生存率は20%まで落ちる。**
生存率が50%になる分かれ目は、時速40キロから45キロの間にある。30キロは、安全に走れる速度というより、ぶつかったときに人が死ににくい速度として引かれた線だ。
ただしこの線は、いまのところ条文の中にしかない。道路の側には、それを知らせるものが何も置かれていない。
車にはねられた歩行者の生存率(衝突速度別)
出典:内閣府 最高速度規制の検討会資料(OECD「Speed Management」2006年)
事故は10年で半減、狭い道の割合は24%のまま
では、なぜ今なのか。警察庁の集計を10年並べると、事情が見えてくる。
全国の人身事故は平成25年の62万9,033件から、令和5年の30万7,930件へ減った。10年でほぼ半分だ。車道の幅が5.5メートル未満の道路で起きた事故も、15万1,710件から7万3,607件へ減っている。こちらもほぼ半分。
**動かなかったのは割合のほうだ。全事故に占める5.5メートル未満の道路の比率は24.1%から23.9%で、10年間ほとんど変わっていない。**
広い道も狭い道も同じペースで減ったということは、この10年の事故減少が、狭い道を特に改善した結果ではないことを意味する。
傷つく人の顔ぶれも違う。令和5年の死傷者を幅員別に見ると、5.5メートル未満の道路では歩行中が13.3%、自転車乗用中が32.0%で、合わせて45.3%。5.5メートル以上の道路の25.1%と比べて、およそ1.8倍だ。
狭い道の事故は、歩いている人と自転車に乗っている人の事故だ。衝突速度が生死を分ける層が、そのまま集まっている。
人身事故の件数と、車道幅員5.5m未満の道路が占める割合
出典:警察庁「ゾーン30・ゾーン30プラスの概要」(令和6年5月)
ゾーン30は13年で4,358地区。新規指定は5年で3分の1に
狭い道への対策がなかったわけではない。2011年に始まった「ゾーン30」は、警察が区域を指定して最高速度30キロの規制をかけ、入口に標識と路面表示を置く仕組みだ。令和5年度末までに全国4,358地区が整備された。
ただし、新しく増える地区数は年々小さくなっている。
- 令和元年度:215地区
- 令和2年度:168地区
- 令和3年度:156地区
- 令和4年度:101地区
- 令和5年度:73地区
区域を決め、住民と合意し、標識と路面表示を入れる。1地区ずつ積み上げる方式は、面として広げようとするほど手間がかさむ。
今回の政令改正は、この指定作業を省いた設計になっている。線の引かれていない道は、指定を待たずに全国どこでも30キロだ。ゾーン30が十数年かけて指定してきた範囲より広い区域が、施行の日に一度で対象になった。
代わりに消えたものもある。ゾーン30の入口にはあった標識が、新しい30キロにはない。
速度を落としたのは規制の数字ではなく、道の形だった
標識のない規制で、実際に速度は落ちるのか。手がかりは、2021年に始まった「ゾーン30プラス」にある。
30キロの区域規制に、ハンプ(路面の盛り上がり)や狭さく、スムーズ横断歩道を組み合わせる方式だ。警察庁が36都道府県で検証した結果はこうなった。
- 30キロを超えて走った車の割合:47% → 28%
- 横断歩道の手前で止まるか減速した車の割合:74% → 89%
**車の走り方を変えたのは、規制の数字ではなく道の形のほうだった。**
だが、対策が完了したゾーン30プラスは令和5年度末で128地区。ゾーン30の4,358地区の3%にとどまる。
2025年の交通事故死者は2,547人で、統計の残る1948年以降で最少だった。それでも歩行中が890人と最も多く、うち608人(約7割)が65歳以上。さらにその442人(72.7%)は、道路を横断している最中だった。
死者が集中しているのは、人が道を渡る数秒間だ。9月1日に下がったのは条文の数字であり、この数秒間を変えるのはハンプやスムーズ横断歩道のほうになる。法定速度の30キロ化が効いたかどうかは、取り締まり件数ではなく、通学路にそうした設備がいくつ置かれたかで測ることになる。
スムーズ横断歩道を置くと、車の走り方はこう変わった
出典:警察庁(36都道府県での設置効果検証)