独自分析
匿名・流動型犯罪グループ遠隔解析警察官職務執行法特殊詐欺通信の秘密
トクリュウで捕まる6割は20代以下。指示役のスマホを遠隔で見る法案が出た

トクリュウで捕まる6割は20代以下。指示役のスマホを遠隔で見る法案が出た

10月16日に閣議決定された警察官職務執行法の改正案。裁判官の許可状を条件に、指示役の端末から狙われた人の名前や犯行日時を取り出して被害を止める仕組みだ。

2026-10-16

約1割

検挙6,679人のうち主犯や指示役の割合

検挙も被害も、同じ年に増えた

警察庁の「令和7年の犯罪情勢」によると、2025年に匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)によるものとみられる主な資金獲得犯罪で検挙された人は6,679人だった。前年より1,476人、28.4%多い。

内訳はこうだ。

  • 詐欺:3,075人(前年比15.8%増)
  • 薬物事犯:1,887人(前年比105.8%増)
  • 窃盗:1,020人
  • 風営適正化法違反:393人
  • 強盗:304人

同じ年、被害額も最多を更新した。特殊詐欺が1,414億円、SNS型投資詐欺とロマンス詐欺が1,827億円で、合わせて3,241億円になる。

2026年のペースはさらに速い。1〜8月の特殊詐欺の被害額は2,360.7億円で、前年同期より588.4億円(33.2%)多い。認知件数は29,687件だ。2026年の集計からはSNS型の投資詐欺とロマンス詐欺もこの枠に入る。

検挙が3割近く増えた年に、被害も増えている。この2つが同時に増えるのは、捕まる人と稼ぐ人が別だからだ。

特殊詐欺とSNS型の投資詐欺・ロマンス詐欺を合わせた被害額(2026年は1〜8月の暫定値)

出典:警察庁「令和7年の犯罪情勢」「令和8年8月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」

捕まるのは誰か

同じ統計は、検挙された6,679人の内側も示している。年齢層で一番多いのは20代前半の23.4%で、20代までの若年層が全体の約6割を占める。

そして約3割は、SNSに流れていた犯罪実行者の募集情報が加担のきっかけだった。

主犯や指示役の立場にあった人は、約1割にとどまる。

特殊詐欺だけを見ると、2025年の検挙件数は6,590件で前年比0.2%増、検挙人員は2,307人で1.5%増だった。被害額が96.7%増えた年に、検挙の数字はほぼ横ばいだ。

この差が意味するのは、取り締まりの網が実行役の層でとまっているということだ。実行役はSNSで募集され、1件ごとに入れ替わる。1人捕まっても、翌週には別の人が同じ役を担う。

逮捕して端末を押収し、供述を取る、という順番だと、たどり着くのは次の実行役か、せいぜいリクルーターまでになりやすい。資金を吸い上げる中核は匿名のまま残る。

トクリュウの主な資金獲得犯罪で検挙された人の年齢層(2025年)

出典:警察庁「令和7年の犯罪情勢」図35

新しい権限が置かれた場所

10月16日、政府は警察官職務執行法(警職法)の改正案を閣議決定し、国会に提出した。柱は、秘匿性の高い通信アプリのやり取りを端末から遠隔で取得する「遠隔解析」だ。

取り出す対象は、狙われている人の名前や住所、犯行の日時、実行役の人数といった情報とされる。

目を引くのは、この権限を刑事訴訟法ではなく警職法に置いたことだ。刑訴法は事件を立てて裁くための捜査手続を定める。今回の条文は、犯罪予防のための行政権限として警職法に加わる。

要件と歯止めはこうなっている。

  • 数人の共謀による重大犯罪で、緊急の必要があり、他の方法では情報収集が著しく困難な場合に限る
  • 裁判官の許可状が必要
  • 解析は警察庁長官が指名する「被害防止電子計算機調査官」が行う
  • 許可されていない情報を取得した場合は消去義務を負う
  • 利用者には罪名、許可状の発付日、実施日を事後に通知する
  • 公安委員会に報告する

情報の取り扱いや通知の方法は国家公安委員会規則で定める。今国会で成立すれば、公布から6カ月以内に施行される。

特殊詐欺の手口別被害額(2026年1〜8月、暫定値)

出典:警察庁「令和8年8月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」

成果をどの数字で見るか

犯罪予防の権限として設計されたことで、成果の測り方も変わる。起訴や有罪を前提にしない制度なので、検挙人員が増えたかどうかでは評価できない。止まった被害は統計に出ないからだ。

先例はある。通信傍受法は第36条で毎年の国会報告を義務づけており、令状の件数から通話回数、逮捕人員までが公表される。2025年分は15事件で傍受を実施し、回数は1万3,208回、そのうち犯罪に関係する通話が2,645回、逮捕は109人だった。

回数と結果が並んで出るため、外から比率を確かめられる形になっている。

遠隔解析でも、許可状が年に何件出たのか、事後通知が何件届いたのかが定期的に数字で出るかどうかで、外から検証できる範囲が決まる。その多くは国家公安委員会規則に委ねられている。

国会審議では、憲法21条2項の通信の秘密との関係が論点になる。被害額が増え続ける一方で、検挙は実行役の層でとまっている。この2つの数字の間に新しい権限が入る形だ。

だから追う数字は、検挙人員ではなく許可状の件数になる。