独自分析
賃金最低賃金物価春闘中小企業
「時給1,500円」への助走 ── 実質賃金プラス転化と春闘3年連続5%超の行方

「時給1,500円」への助走 ── 実質賃金プラス転化と春闘3年連続5%超の行方

4カ月連続プラスの光明。だが中小企業の体力と物価リスクが「賃上げの春」の持続を試す。

2026-05-10

+1.3%

実質賃金(26年3月)

実質賃金「プラス転化」──4年ぶりの潮目

厚生労働省が5月8日に公表した毎月勤労統計調査(2026年3月分速報)では、現金給与総額は前年同月比2.7%増の31万7,254円だった。物価を差し引いた実質賃金は消費者物価指数(総合)ベースで+1.3%となり、4カ月連続でプラスを維持した。

所定内給与は27万1,313円、前年同月比3.2%増で、3%以上の伸びが3カ月続くのは1992年10月以来33年5カ月ぶり。2025年は年平均マイナス1.3%で4年連続のマイナスだったが、2026年初めから潮目が変わりつつある。パートの時間あたり給与も1,431円、3.8%増で57カ月連続プラスとなった。

実質賃金 前年同月比の推移

厚生労働省「毎月勤労統計調査」

最低賃金1,500円への道──年95円の階段

2025年度の最低賃金は全国加重平均1,121円で、前年比66円増は1978年の目安制度開始以来最大だった。全47都道府県が初めて1,000円を超え、東京都は1,226円、高知県・宮崎県・沖縄県でも1,023円となった。

政府目標の「2020年代に全国加重平均1,500円」へは、2029年まで残り4年で379円、年平均約95円の引き上げが必要になる。2026年度は1,200円前後が有力視されるが、東京都と最低水準県の差は203円ある。日弁連は2026年4月に格差是正を求め、日本の最低賃金は中位労働者の総賃金比47%とOECD平均57%を下回る。

最低賃金(全国加重平均)の推移

厚生労働省

春闘5%超「3年連続」──賃上げの波は広がるか

2026年春闘では、連合の第3回集計(4月3日発表)で定期昇給込みの賃上げ率が5.09%となった。第1回集計では5.26%、300人未満の中小組合も5.00%で、3年連続の5%超はバブル期以来の水準である。

ただし、この率には年功による定期昇給分が含まれ、通常は1.5〜2%程度とされる。基本給を底上げするベースアップに限れば2〜3%台と見るのが妥当で、非正規や未組織の中小・零細企業への波及は別問題だ。それでも中小組合の5.00%は、人手不足のなか賃上げ圧力が広がっていることを示す。

名目賃金・物価・実質賃金(2026年3月・前年同月比)

厚生労働省「毎月勤労統計調査」、総務省「消費者物価指数」

中小企業と物価の壁──賃上げは体力勝負

最低賃金の引き上げと春闘の高水準賃上げは、働く側には追い風だが、中小企業には負担となる。飲食、小売、介護など労働集約型産業では、人件費増が経営を直接圧迫しやすい。

焦点は価格転嫁である。大企業に比べ、中小企業は取引先との力関係から原材料費や人件費を価格に反映しにくい。吸収を続ければ利益率が下がり、設備投資や人材育成の余力も失われる。政府は賃上げ促進税制や業務改善助成金を用意するが、赤字企業には効果が限られる。年95円ペースの最低賃金上昇は、淘汰とDX投資などの変革を同時に迫る。

「好循環」の条件──賃上げは日本経済を変えるか

2026年に入り実質賃金が4カ月連続でプラスとなったことは、賃金と物価の好循環の兆しといえる。ただし持続性は不透明で、中東情勢やOPECプラスの生産調整による原油高が再燃すれば、実質賃金は再びマイナスに戻りかねない。

円安も輸入物価を押し上げる。日銀は2026年度の消費者物価(除く生鮮食品)を前年比2%台後半と見込んでおり、物価が名目賃金を上回るリスクは残る。持続的な賃上げには、DX投資や人的資本投資による生産性向上が欠かせない。1,500円目標は単なる数字ではなく、日本経済の構造転換を促す分岐点となる。